エリック・スポールストラ

意気消沈のスポールストラ「あり得ない失敗」

オーバータイムまでもつれたピストンズvsヒートは、意外な幕切れを迎えた。第4クォーター残り1分半で102-111と9点のビハインドを背負っていたヒートは、タイラー・ヒーローの3本連続の3ポイントシュート成功で追い付いていた。ヒーローはそれまでに29得点と絶好調で常にディフェンスに警戒されていたが、その上から強引に放ったシュートを決め続けていた。

オーバータイムの残り40秒、マリーク・ビーズリーの3ポイントシュートで119-119の同点にされるも、最後の攻めを託されたヒーローがこの日40得点目となるシュートを沈めて、土壇場でヒートが勝ち越した。

ところが、そこから信じがたいミスが続いた。残り1秒を守り抜けばいいディフェンスの場面、コート内にヒートの選手が6人いて仕切り直しに。誰が誰をマークするのか確認できないままにプレーが再開され、バム・アデバヨを振り切ってリムに走ったジェイレン・デューレンにケイド・カニングハムがパスを送る。このアリウープが難なく決まってピストンズが追い付いた。

ダブルオーバータイムに入るまでに、まだ1秒が残っていた。この時、ヒートの指揮官エリック・スポールストラは我を忘れており、タイムアウトがもう残っていないにもかかわらずタイムアウトを要求。これでテクニカルファウルを取られ、テクニカルフリースローで逆転されて121-123で敗れた。

スポールストラはヒートを率いて17年目。チームをまとめるマネジメント力も、選手交代のパターンを固定せずに柔軟な選手起用で多彩なバスケを展開する戦術も高い評価を受けているベテランが、こんなミスをするとは信じがたい。

試合後のスポールストラはさすがに意気消沈しており、「タイムアウトがないことは分かっていたのに、感情的になって思わず行動してしまった。あり得ない失敗をしてしまった。私の責任だ」と自分のミスを悔いた。

「粘り強いディフェンスができた時間帯があり、フィフティ・フィフティのボールに飛び込むハッスルが見られた時間帯もあった。試合を通じてタイラーの活躍は本当に素晴らしかった。ダブルオーバータイムで勝つべき試合だった。変な横槍が入らなければそうなる展開だったが、ベテランのコーチである私が邪魔をしてしまった」

大活躍が勝利に繋がらなかった悔しい試合となったが、ヒーローは指揮官を責めなかった。「スポ(スポールストラ)は史上最高のコーチの一人だ。それでもこういうことは起こる。偉大な選手にもミスがあるのと同じで、偉大なコーチでも時には失敗を犯す。それに、この前の試合は彼の采配で勝ったようなもの。僕らはどんなことがあってもスポについていくよ」

チームリーダーのアデバヨも、このミスを乗り越えてチームとして成長することを誓った。「激しい試合で一時は点差が離れたから、あっさり負けていたかもしれない。でもそこから全員で力を合わせて巻き返し、勝利まであと一歩のところまでいった。最後にちょっとしたコミュニケーションミスがあったけど、そこから学んでもっと強くなれる」

アデバヨもヒーローと同じように、ミスをしたスポールストラを責めることは一切しなかった。「僕はこのチームで8年プレーしているけど、彼のミスを見たのは初めてだ。多分、もう二度と見ることはないだろうね」