ベテランから学び、競い、そして追い抜いていけるか
グッドプレーヤーを揃えての再建に別れを告げ、スペシャルな才能を求めたスパーズは、狙い通りにビクター・ウェンバニャマを手に入れました。ルーキーシーズンから異次元のプレーでファンを喜ばせたウェンバニャマでしたが、それだけで勝てるチームになれるほどNBAは甘くありません。ここから勝利という結果を得るために、ウェンバニャマ個人としてもチームとしてもレベルアップが必要となります。
今年のNBAドラフトではウェンバニャマの相棒となるガードのステフォン・キャッスルを1巡目4位で指名しました。8位指名権も保持していましたが、こちらはトレードで放出しており、若い選手を集めて試すのではなく、キャッスルが持つ特別な才能を信じた形です。19歳とは思えぬ落ち着き払ったプレーでコネチカット大をNCAAトーナメント優勝に導いたキャッスルには、得点やアシストなど目に見えるスタッツ以上に、要所での的確な判断やリーダーシップによる『チームを勝利に導く働き』が期待されます。
若い選手の指南役としては、『ポイント・ゴッド』ことクリス・ポールも獲得しました。司令塔としての立ち居振る舞いをキャッスルに伝授するだけでなく、スクリーンからのロールマンプレーなど『使われる』プレーをウェンバニャマの身体に染み込ませることも期待できます。39歳になったポールにはディフェンスや得点力に陰りは見られますが、堅実なプレーメークは健在なだけに、ハーフコートゲームをしっかり組み立てる重要性を彼らに教えてくれるはずです。
昨シーズンのスパーズはターンオーバーがリーグで4番目に多く、自分たちのミスから失点を重ねました。その一方でウェンバニャマは3.6という異次元のブロック数を記録し、ハーフコートディフェンスではペイント内を強固に塞ぐことができます。トランジションにこだわらずにオフェンスを組み立てることでミスが減り、攻守両面での改善が期待できるため、ポールとキャッスルでペースをコントロールすることが重要となります。
また近年のスパーズは、若手を多く集めた結果としてロスターが飽和状態になりつつあり、勝利に貢献できる選手は誰なのか、チーム内のサバイバルレースが激しくなりそうです。
経験豊富な若手を集めて競わせるだけではチームの成長が頭打ちになるとの判断があったからこそ、今オフに経験豊富なベテラン2人が加入しました。とは言え、ポールとバーンズだけでチームを勝たせることはできません。シーズンを通してウェンバニャマを始めとする若手たちは、ベテランから学び、競い、そして追い抜いていくことが求められます。
特にハリソン・バーンズが加わったウイングのポジションでは、将来性を買われて試合に出ることが難しくなるはずです。これまではただ精一杯プレーし、そこから学べば良かったのですが、ここからはバーンズを蹴落とすようなプレーを見せなければ居場所を失うことになります。そんなチーム内競争がスパーズを『本当に勝てるチーム』へと引き上げます。