パリオリンピックで学んだ『ステフィン・カリー流』
昨シーズンのプレーオフ、デビン・ブッカーとケビン・デュラント、ブラッドリー・ビールの『ビッグ3』は機能せず、サンズはファーストラウンドでティンバーウルブズにスウィープ負けを喫した。2021年にNBAファイナルに進出しながらも、クリス・ポールを中心とするチームに上積みがないと判断したフロントは、ブッカーだけを残してロスターを総入れ替えて新オーナー肝煎りの『ビッグ3』を完成させたが、その結果は無残なものだった。
その印象が非常にネガティブだったことで、新シーズンを迎えるにあたってもサンズの評価は高くない。特に、残り3年で総額1億6000万ドル(約240億円)というビールの契約はチームに重く圧し掛かっており、ロスターの柔軟性を失うリスクを承知での獲得は、ここまで大きな失敗だと言わざるを得ない。
ただ、ビールが全くの期待外れかと言えばそうではない。『第3のエース』としての結果は残しており、サンズ2年目で環境に慣れる今シーズンはさらなる活躍も見込める。契約の大きさに見合った活躍ではないとしても、それをどうプラスに生かすかがサンズ浮沈のカギとなる。
では、そのカギとは具体的に何なのか。ウルブズに完膚なきまでに叩きのめされた4月には光明が見えなかったが、ブッカーのオリンピックでの活躍がヒントになりそうだ。
ブッカーは正真正銘のスター選手だが、キャリア序盤は全く勝てないサンズで孤軍奮闘を強いられ、この数年もコロコロ変わるチームの戦い方に応じて様々な役割をこなしてきた。才能と努力に見合った成果を得られない苦難の時期ではあったが、コービー・ブライアントにあこがれて1対1のスキルをひたすら磨いたキャリア初期を経て、この数年はクリス・ポールの試合展開を読む能力とピック&ロールの活用の仕方を学び、実践している。
そしてパリオリンピックでの彼は、ボールを持つ機会が減ってもプレー効率を下げない術を身に着けた。レブロン・ジェームズとステフィン・カリー、デュラントの3人が、プレータイムでも得点でもこのチームのトップ3だが、ブッカーはこの3人と遜色のない22.0分の出場機会を得て、11.7得点に3.3アシスト、ターンオーバーはわずか0.5と素晴らしいスタッツを残している。自分でボールを持って攻める機会が少なくても得点できたのは、スクリーンを使い、スペースへと泥臭く走り続け、そこで汗をかいてもシュート力を落とさない『ステフィン・カリー流』のプレースタイルを身に着けた結果だ。
3ポイントシュートとディフェンスが、アメリカ代表におけるブッカーの役割となり、彼はそれを完璧にこなした。昨年のワールドカップで4位に終わった後、カイル・クーズマは「代表には役割を理解できるスター選手が必要だ。ボールを持っていれば誰だって上手くやれるが、求められるのはディフェンスをしながらコーナーに走るプレーだ」とSNSに投稿した。これにブッカーは「I’ll do it」(僕がやる)と返信している。そしてブッカーは有言実行でアメリカ代表に金メダルをもたらした。
ブッカーがサンズでもこのプレースタイルを貫くことができれば、デュラントとビールの能力は最大限に発揮され、そのオフェンス面でのポテンシャルが発揮されるだろう。ただ、その場合は『ビッグ3』で唯一の生え抜きで、地元ファンの愛情を集めるブッカーが『第3のエース』へと序列を落とす。
それもブッカーは受け入れるだろう。スタッツは伸びず、チームが成功を収めても別の誰かがMVPを受賞するかもしれないが、彼が求めるのは勝利以外にあり得ない。ブッカーが迎える10年目のシーズン、彼はこの数カ月のうちにサンズの歴代得点記録(ウォルター・デイビスの1万5666得点)を塗り替える。個人の栄誉はそれで十分。サンズのために、彼は今回も「I’ll do it」の精神でコートに立つはずだ。