文=大島和人 写真=B.LEAGUE

勝負どころで指揮官に交代を決断させないパフォーマンス

川崎ブレイブサンダースのポイントガードと言ったらまず篠山竜青だ。チームの主将で、日本代表歴もある彼は、ここまでの43試合すべてに先発している。25歳の後輩ポイントガード藤井祐眞は、スタートから出た試合が今季は一つもない。しかし11日の京都ハンナリーズ戦は、藤井が篠山の2倍以上となる28分28秒のプレータイムを得た。試合後のヒーローインタビューに呼ばれたのも彼だった。

北卓也ヘッドコーチは藤井のプレータイムについてこう説明する。「同じくらいのプレータイムにしようと思ったんですけれど、第3クォーターの途中から藤井が出て、そこから良いシュートを決めた。第4クォーターも彼のシュートで良い流れになっていた。連続15分くらい出ていたので、どこかで篠山に変えようかなとは思ったんですけれど、流れが良かったのでそのまま行こうということでした」

この試合の篠山が決して悪いということではなかった。藤井が「代えられなくなる」プレーをした結果として、11日は正と副が入れ替わった。

この日の藤井は第1クォーターの残り2分39秒からコートに入ると、第2クォーターはフル出場。後半開始からベンチに下がったが、第3クォーター残り5分26秒に藤井はコートへ戻り、そのまま試合終了までプレーを続けた。

ニック・ファジーカスの31得点に次ぐ18得点を記録。そのうち8得点は勝負どころの第4クォーターで決めたものだ。3ポイントシュートの成功率は「9分の4」。藤井はそんな得点の量産をこう振り返る。

「ニックのところに相手の守備が寄ったところでパスが出てきた。フリーなので思い切り打てました。今日はタッチが良い感触だったので、外れても打って行きました」

「ボールに対しての食らい付きでは負けたくない」

控えと言っても藤井は1試合平均で20分以上の出場時間を得ている。辻直人が腰痛で離脱している時期は、篠山とツインガードを組むこともあった。藤枝明誠高2年のウィンターカップ2回戦では大会史上最多の『1試合79得点』を記録したスコアリング能力も秘めている。そんな実力者が控えにいることは、B1最高勝率を誇る川崎のすご味だろう。

控えポイントガードの心得を、藤井はこう説明する。「悪い流れの時はあまり無理をせず、流れを変えるようなディフェンスだったりルーズボールだったり、泥臭いことを頑張る。チームの流れが良い時は何をやっても上手くいくので、流れの中でやる感じで入ります」

加えて藤井はタフさが光る選手でもある。彼に自身の強みを問うたら「球際」という即答が帰ってきた。「ボールに対しての食らい付きでは負けたくないというか、負けない。そういう気持ちは絶対あります。自分がそういうところで流れを変えなければいけないプレイヤーというのも分かっています」

後半は15分以上「出ずっぱり」の状態になった。「疲れませんでした?」という記者の素朴な質問に対しては「そんな疲れはしていないです。まだ若いので!」と元気よく答えていた。チームのホームページを開いて藤井の選手紹介を見ると「無尽蔵な体力でコートを走り抜けるスピードスター」と書いてある。確かに走力は大きな武器だ。

流れを読み、身体を張り、得点も決める『最強の控え』

藤井が川崎以外のチームでプレーしていたら、もっと良い立場を得られたかもしれない。だが試合の流れによっては11日の京都戦のように、控えの役割が重くなることもある。彼が「練習から竜青さんとやっているので、それだけ成長できる」と説明するように、川崎だからこそ得られる経験もある。

彼は控えの心得をこう説明する。「控えで出てもプレータイムは先発よりも長かったり、辻さんがいない時期は竜青さんとツーガードでやったりして、自分にとって良い経験をさせてもらっています。そこはプラスに考えているし、2人の調子が悪い時には自分が行ってもいいのかなと思う。倒すというよりは、サポートの延長上というか、自分がいつでも替われる立場にいたいなという感じです」

シューティングガードの辻直人が腰痛の影響で直近の試合ではプレータイムを抑えており、2月上旬から約1カ月に渡って欠場も強いられた。ただチームは年明け後の14試合を12勝2敗で乗り切っている。

ファジーカスを筆頭に魅力的な人材を揃える彼らだが、『最強の控え選手』の存在も見逃せない。流れを読み、身体を張り、大切な得点も決める――。そんな藤井の活躍があるからこそ、チームが好調を維持できているのだろう。

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