「特に気負うこともなく驚くこともなく」の初スタメン
前節、シーホース三河は敵地で千葉ジェッツと対戦した。全体勝率トップ、B1で最も調子の良いチームを相手に若い三河がどこまで戦えるかが注目されたが、結果としては連敗。それでも74-105と完膚なきまでに叩きのめされた第1戦から、翌日の第2戦では第3クォーター途中に3点差まで迫るなど善戦し、鈴木喜美一ヘッドコーチも「収穫はありました」と振り返る。
大敗を喫した第1戦から何が変わったか。大きな変化はポイントガードだ。開幕からスタメン出場を続けてきた生原秀将に代わり、熊谷航が初めて先発を任された。熊谷は大東文化大からシーズン途中に加わった特別指定選手で、まだ22歳。経験が重視されるポジションだが、鈴木ヘッドコーチは「昨日の試合では動きが良くて、逃げずに戦っていた。ここで使わない手はない」と迷うことなく先発を入れ替えた。
熊谷に聞くと、スタメンを言い渡されたのは第2戦の試合当日、ロッカールームに入ってアップする前に集合したところ。プロ初先発にさぞ気合いが入ったかと思いきや、「特に気負うこともなく驚くこともなく。いつも通りやろうと思っていました」と語る。
マッチアップするのは日本代表の司令塔である富樫勇樹。結果的には、第1戦で26得点と絶好調だった富樫の得点はわずか2へと急降下した。それでも熊谷に抑えた自覚はなく、むしろ課題を感じている。「1対1ではつける部分もありましたが、スクリーンに来られるとどうしようもなかったです。ボールを持たせる前にもっとコンタクトして疲れさせたり、ドリブルの数を多くさせてシュート成功率を落とさせたりすることが課題です。その中でも富樫さんや西村(文男)さんは落ち着いていて、決めるべきところを決めてくる。本当に勉強になりました」
「目指すポイントガード像をどこに持っていくのか」
この試合、熊谷は38分半とほぼフル出場。スタッツは11得点6アシスト(3ターンオーバー)、強烈なトランジションオフェンスを誇る千葉を相手にしても気持ちで引かず、強気のゲームメークを続けていたことが、このプレータイムに繋がった。
大学でどれだけ優れた選手でも、プロに来れば壁にぶつかるもの。それでも熊谷は加入からここまで順調にプレータイムを伸ばしている。狩俣昌也は経験豊富なベテランで、生原も三河の次代を託すに足るエリート。ここでプレータイムを確保するのは簡単ではないはずだ。順風満帆に信頼に見えるが、熊谷自身はそう受け止めていない。
「正直、この2日間までは迷っていた部分がありました。自分としては『もっとやれるのに』と思っていても、練習の中で自分を出せなければ認められません」
熊谷の迷いは、Bリーグで自分のスタイルをどう合わせていくか、という部分にあった。「僕は大学時代からシュートや、ドライブからのアシストを得意としてきました。でもこのチームではバランスが求められるし、他に点を取れる選手がたくさんいるので、目指すポイントガード像をどこに持っていくのかが難しいです。ポイントガードとしてはチームを勝たせられるのが一番だと思います。自分がどうプレーするのであれ、チームが勝つことで評価されるので、そこを目指したい。それでもこの2カ月半ぐらいは、ずっとパスでコントロールすることばかり考えてしまって、ノーマークの時でも躊躇してシュートが入らなかったりしました」
そんな迷いの中で、急にこの千葉戦で強気のプレーができた理由は何なのだろう?
「日々の練習でいろんなことをやって、少しずつ試合に慣れて落ち着いてきたのもあって、それが昨日(第1戦)で表れたんだと思います。急に視界がクリアになった感じです。いつもだとボールを持つと焦ってしまうんですけど、ボールを持って周囲を見ながら自分で攻めるかどうかの判断が落ち着いてできました。なぜか分からないですけど、急に冷静になれました」
「まだまだ全然、そんなに甘くないです」
迷いが晴れた瞬間を見逃さずに先発に抜擢した鈴木ヘッドコーチの『見る目』にはうならざるを得ない。チャンスを生かした熊谷もまた称賛に値するのだが、本人は「チームは負けているわけですし。まだまだ全然、ここからです。そんなに甘くないです」と気の緩みを見せない。
それでも、大学からプロに足を踏み入れて悩みながらも一歩ずつ前進する日々を、「すごく充実しています」と熊谷は受け止めている。
「シュートについては自信があります。自信満々というか、気持ちよく打てばシュートも入ってくると思うので、そこの気持ち次第です。ノーマークはすべて決めるぐらいの確率じゃないと上に行けないと思うので、残りのシーズンでもっとレベルアップしていきたいです」
チームが上り調子になったところで大黒柱の桜木ジェイアールがケガで欠場したりと、なかなか波に乗れない三河だが、ワイルドカード2位でチャンピオンシップ進出を狙える位置につけているし、熊谷と岡田が特別指定選手とは思えない強気のプレーでチームの推進力となっているのは心強い。若い2人にとって、チャンピオンシップ進出を争う1試合1試合が貴重な経験となる。
「連敗してますけど、ケガ人が多い中でもチームはレベルアップしています。今日もズルズル離されるところを粘り強く頑張ったところもあります。レギュラーシーズンは残り14試合、勝てるように努力するので、応援をお願いします」と熊谷はファンに呼び掛けた。
『チームを勝たせるポイントガード』になれるかどうか、熊谷の挑戦は続く。
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