昨シーズの収穫「タフゲームをしっかり勝ち切れたのが一つ自信になった」
──若返りを図ってスタートした昨シーズンを振り返ってください。
本当に良い準備ができた中でシーズンをスタートできたと思っています。大きなケガがなくできたことがまず一番。それは良い準備をした選手、そこを支えてくれるコンディショニングスタッフに感謝しなきゃいけないところだと思います。チームも1月に富士通レッドウェーブに負けるまで16連勝し、本当に良い状態で行けていたと思います。
──前半戦の収穫はどういったところでしたか?
安間(志織)が戻ってきて山本麻衣、川井麻衣がいて、ガード陣にインパクトがあるじゃないですか。ただ、私はソハナ(ファトージャ)と梅沢(カディシャ樹奈)の2人が互いに競争して、チームをしっかり支えてくれていると思っています。日立ハイテク(クーガーズ)戦の時にソハナがファウルトラブルになったのですが、その時の梅沢のパフォーマンスを見て、お互いが本当に刺激し合って、助け合っているという感じが出ていました。そこが前半戦ではすごく印象に残っています。ガードが強い分、トランジションオフェンス、ファストブレイクはしっかり出せていました。だからこそ、時にはインサイドを使うそのメリハリをつけることができていたので、梅沢の活躍やソハナの頑張りが自分の中ですごく印象に残っています。
──その中で1番の課題は何でしたか?
分かっていたことではありましたがリバウンドです。シーズンの序盤からずっと課題にしていましたが、最終的に修正し切れなかったのが一つ大きかったと思います。スティールやターンオーバーの誘発に関しては、ここ2年間はほぼ1位を取っているチームなので、ディフェンスの強度、インテンシティは良かったと思います。せっかく良いディフェンスをしてもオフェンスリバウンドを取られてしまい、相手のポゼッションが増えていました。
──強豪チームとの対戦が増えていった後半戦の印象は?
まずはアーリーエントリーの選手が5人入ってくれて16人になりました。その中でどれだけ練習の強度、リズムなど、試合に近い部分で1週間準備するかというところが自分にとっては挑戦でした。1、2年目は11人や12人でやっていたので、16人になった時にそこをどうするか考えていましたし、毎週トップ層のチームと戦う中でのプロセスをすごく大事にしてきました。実際にENEOS(サンフラワーズ)、デンソー(アイリス)、シャンソン(化粧品シャンソンVマジック)と1勝1敗で終えたのはすごく良かったです。そして、タフゲームをしっかり勝ち切れたことでコーチとして自分も、選手としても自信になりました。
「自分が1年後どうなっていたいのか、一言で言うと『WOW』」
──トヨタ自動車の指導者として6年目を迎えます。今後、コーチとしてどうあっていきたいですか。
いろいろなコーチ像があると思うんですけど、まずはパッションとエナジー。そこは年齢に関係なくコーチをしている時は一番大事にしたいです。選手にもそうあってほしいけど、そのためには自分がそれを表現しなきゃいけないと思うので、自分がコートに立ってエナジーを出して、バスケットボールに向き合う姿勢を出し続けたいです。私は良いものに対してはみんなで一緒に喜ぶし、負けた時はみんなで話して悔しさを共感するチームでいたいです。コーチとしてはそこが一番かな。
『コーチ』はハンガリーのコチという場所が語源です。コチでは馬車が盛んに使われており、目的地に運ぶ(導く)馬車を見た人たちがつけました。なので、戦術で目的に導くのはココーチングの一つの方法です。そして、リーダーというのは「俺俺」、「私私」じゃなくて、「私達」と言えるかどうかだと思っています。それは普段の姿勢から出るモノだと思っているので本当に大事にしています。
──来シーズン、チームも選手も変わりますがどんなバスケを展開していきたいですか。
今いるメンバーで、自分がやりたいと思ったバスケットボールをやることがいいのか、今いる選手に合わせた方がいいのかとなったら、私は後者です。そのシーズンのメンバーの中で選手たちの持っている可能性をどうやって引き出してあげられるかがコーチングだと思っています。(トヨタ自動車が)小さくなってリバウンドをどうするんだとか、大丈夫かと思われる人もいると思います。でも、あえてそこに挑戦していくことも自分にとっては一つの楽しみなんです。自分が1年後にどうなっていたいかを一言で言うと『WOW』なんです。自分も回りも選手たちも『WOW』。トヨタのみんなが『WOW』と思うようなチーム、スタイルを築いていきたい。そういう方向にシフトを組んでます。
──Wリーグは移籍が増え、海外にチャレンジする選手も増えてきました。その変化についてどう思いますか。
デンソーの髙田真希選手が16年目で初めて優勝したり、町田選手かも富士通で13年目にして優勝を手にする、そういうのがなくなっていくと思います。ただもちろん、『one of club』と言葉があるように、一つのチームに居続けられるレジェンドという存在も実際あります。だからこそフロントがどういうビジョンを立てるか、それを現場のコーチたちとどうやって連携していくか。それを明確に出すことが重要だと思います。
選手の海外流出を防ぐにはやっぱりWリーグが変わることか必要だと思います。「Wリーグでやりたい」と、そこに価値を生み出さないと出ていく一方になる。ただ、私も海外挑戦した身なので、海外挑戦自体は良いことだと思っています。
──今年の5月にWNBAのダラス・ウィングスとオフィシャルパートナーとして提携しました。こちらも新たな取り組みの1つだと思いますが、ご自身のWNBA挑戦も含めてこちらの経緯を教えてください。
私もWNBAに挑戦させてもらった中で、同じバスケだけど本当にやりたいと思わせてくれる唯一無二のリーグがWNBAでした。今、コーチになってもそこを目指しています。今回の提携はコーチ、選手、チームという3つの要素があり、チームで言えばフロントがエンターテインメント性、事業性のところ。選手からすれば『あの舞台に立つ』というモチベーション。コーチからするとアメリカのバスケットボールを学べる機会という3つ。何故アメリカが金メダルをずっと取り続けられるのか、そこを考えた時に、アメリカのチームから学ぶことは、選手だけじゃなくてコーチもフロントにも必要だと。そこも含めてダラスに声をかけたんじゃないかなと思っています。トヨタアンテロープスというチームがダラス・ウイングスのオフィシャルパートナーとなれば、例えばアメリカに行って練習ゲームやプレシーズンマッチができる。シーズンが終わってトレーニングキャンプ期間中にコーチがアメリカに行って、コーチングを勉強できる。あとは集客やホームゲームの運用のノウハウを学ぶとか。そういうところのファーストステップになるかと考えています。
──最後にファンの方々へ来シーズンに向けてのメッセージをお願いします。
昨年悔しい思いをした中でのチームスタートとなりました。前を向いて、ここからどうやってやっていくのか、どう行動していくのかがすごく大事です。まずはその準備を全員で楽しむ。みんなでエンジョイする環境の中で、良い準備をすることを一つ掲げて、一つひとつ前に進んでいきたいと思っています。てっぺんを目指していく中で何をしていけばいいのかを考え、一人ひとりが考える力を身につけることができる環境作りを、ヘッドコーチとして取り組んでいきます。ですので、来シーズンもぜひ会場に来ていただいて、時に叱咤激励を含め応援いただけたらと思っています。