文=大島和人 写真=B.LEAGUE

勝負どころでボールを『独占』、勝利を呼び込む働き

19日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦。試合を決めたのは、やはり富樫勇樹だった。千葉ジェッツは66-61と5点リードで最終クォーターを迎えていた。富樫は最後の10分間で、千葉の20得点中13得点を挙げてみせた。

富樫はこう口にする。「第4クォーターは自分に任されていると思ってやっている。特に残り5分くらいからのオフェンスは、自分のピック&ロールなりパスから決めるように、責任を持ってやっている」

ポイントガードならば、誰でもチームを導く働きは求められるだろう。ただ富樫のすごみは、勝負どころで点を取ろうとして、実際に取ってしまうところだ。

富樫は第4クォーターの残り6分22秒にマイケル・パーカーとのピック&ロールからフローターを決めると、直後にも同じ形からシュートを沈める。その後も決定的な形を作り続けて、フリースローも10分間で7本得た。

千葉が2点差に迫られた残り3分47秒には、富樫の3ポイントシュートに対して笹山貴哉がファウル。富樫が3本のフリースローをすべて決めて、75-70と点差を拡げた。

この時間帯に限れば、千葉は富樫がボールを『独占』していた。小野龍猛はこう説明する。「ウチはいろんなところにストロングポイントがあると思うけれど、今日はたまたま勇樹のピック&ロールが良かった。そこを最後にしっかり全員で理解して、そのプレーに臨んだ」

富樫がハーフコートでボールを持ち、センターが近くに寄る。富樫がスクリーンを生かして決定的な形を作る。そう書くと話は単純だが、これがなかなか守り難い。タイミングと距離、そして富樫の個人技のハーモニーは絶妙だ。

名古屋の中東泰斗はこう説明する。「富樫選手にやられてしまったけれど、ビッグマンが(ヘルプに)出てしまうと、相手のビッグマンにパスを入れられてしまう。あそこのピック&ロールは、本当に付くのが難しいところ。本当に付きづらい場面なんです。ただ、1本やられた時点でビッグマンにヘルプしろと言うべきだった」

富樫にはっきり寄りすぎると、今度はゴールの近くにいるビッグマンが空いてしまう。そういうジレンマを抱えながら、相手は対応することになる。

富樫を起点にしたピック&ロールが千葉の強みであることは、もちろん相手チームも分かっている。ただ一方で彼は3ポイントシュートの成功率が35.5%と高く、ドライブやパスも含めて選択肢が多い。富樫にボールを持たれたら、もう「何かを捨てて対応する」という割り切りが効かない。

『短めに激しく』の調整方法で過密日程を乗り切る

第4クォーターの名古屋は外国籍選手のオン・ザ・コートが「2」だった。ただ富樫が「ウィーバーの出ている時間帯は、なかなか外に出てこなかったので、ポイントガードとしてはやりやすかった」と振り返るように、名古屋は相手のキーマンを自由にしすぎていた。そこで残り2分35秒にデイビッド・ウィーバーに代えて張本天傑を起用し、ディフェンスにおけるヘルプの動きを修正した。

しかしそれを見た富樫は残り0分49秒、味方のピックの動きを右手で制して、笹山との1on1の状況をあえて作る。そしてドライブからレイアップを決めてみせた。最終スコアは86-80。富樫は試合を通して25得点、第4クォーターだけで13点を決め、千葉を勝利に導くという責任を果たした。

19日の名古屋戦は今季の38試合目で、富樫は10日と11日に日本代表のイラン戦も戦っている。23歳の若さがあったとはしても、疲労の蓄積は本人も認める通りだ。ただ富樫は「コーチ陣が練習時間と強度で、気を使ってくれていると思う。『短めに激しく』という感じでやっていて、選手としてはすごく助かっている」と感謝を口にする。練習メニューの工夫と、適切な休養で、富樫は今週末の連戦に良いコンディションで臨めていた。

試合前には富樫が名古屋のジャスティン・バーレルと話し込む場面があった。バーレルは1月15日のオールスター戦で「たかいたかい」のスペシャルムーブから富樫のダンクをアシストした『恩人』だ。富樫によると2人はこんな関係らしい。

「チームメートになったことはないんですけど、結構よくコミュニケーションを取ります。去年初めて三菱電機(名古屋D)と対戦して、今年オールスターで会って、という感じなんですけれど、なぜか仲がいい。すごくフレンドリーな選手なので」

しかし富樫の活躍を見る限り、「『今日はやりすぎるな』と言われていた」というバーレルのジャブは全く効かなかったようだ。

富樫はオールスター戦後の記者会見で「ジャスティン・バーレルにご飯をご馳走したい」と公約していた。そこを突っ込むと「今回は駄目だった。オフか(アメリカに)帰る前でも行ければと思っている」と真面目に説明してくれた。

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