ニコラ・ヨキッチから学んだオールラウンダー
現地5月14日、ニックスはペイサーズとの第5戦を121-91と大勝して、3勝2敗とシリーズ突破に王手を掛けた。第4戦では本来の激しさを欠片も見せられずに89-121と大敗したが、この試合ではそのエネルギーが戻った。前の試合では18得点と沈黙したエースのジェイレン・ブランソンは44得点を記録。プレーオフの11試合ですでに5回目の40得点超えを果たしたブランソンは「どんな状況であろうといつも通りのプレーをして、問題があっても乗り越えなければいけない。前の試合ではそれができなかった。また繰り返すわけにはいかなかった」と語る。
ペイサーズはブランソンのリズムを乱そうと、しつこいぐらいにダブルチームを送る。ニックスは控えポイントガードであるマイルズ・マクブライドをブランソンと並べてスタメンとし、ペイサーズのディフェンスを撹乱しようとした。タイリース・ハリバートンは「マクブライドの先発は想定内だった」と言い、こう続けた。「だけど、リバウンドであれだけやられたのは全くの想定外だ」
マクブライドを入れる代わりに先発を外れたのはパワーフォワードのプレシャス・アチウワで、リバウンドの不利が予想されたが、実際は全く逆のことが起きた。試合を通じてリバウンドは53-29、ペイント内得点では62-36とニックスが圧倒したのだ。
その立役者は7得点17リバウンド5アシストを記録したアイザイア・ハーテンシュタインだ。ジュリアス・ランドルもミッチェル・ロビンソンも今シーズンは欠場がかさみ、プレーオフでも2人とも戦線離脱となっている。そのニックスで最も計算できるビッグマンとして活躍している彼が、この大事な試合で大仕事をやってのけた。
リムプロテクションとリバウンドでも、ランドルとロビンソンの不在を補っている。ゴール下を制したことで試合を制した彼は「前回、インディアナでの試合がひどかったから、フィジカルに徹し、自分らしく力強いプレーをすると決めていた」と語る。ゴール下で戦い、リバウンドを取ったらプレーメーカーになる。ペイサーズを苦しめたのは彼のリバウンドであり、アシストだった。
ドイツ人の父を持つハーテンシュタインは、ヨーロッパで育った選手らしくオールラウンドな資質を持つ。ロケッツに2巡目で指名され、2018年にデビューを果たしたが、2年目に解雇されている。続いて所属したのはナゲッツで、ニコラ・ヨキッチの控えセンターとして結果を残せなかった。「良いプレーをしてもヨキッチと比べられ、そうするうちに自分に自信が持てなくなる。ヨキッチの控えは誰だって大変なんだ」と彼はボヤく。
しかし、不遇のナゲッツ時代は今の活躍に繋がる学びも得られた。ジェームズ・ハーデンがすべてを仕切るロケッツでは、センターはただ身体を張るのが仕事だったが、ヨキッチを擁するナゲッツではハーテンシュタインのパス能力も認められた。「普通は味方を見てパスを出すけど、ヨキッチは相手のディフェンスを見ている。視線で相手をコントロールする術は、ヨキッチを見て学んだものだ」と彼は言う。
それがキャバリアーズとクリッパーズでのブレイクに繋がり、2022年オフにニックスと2年1600万ドル(約24億円)の契約を結ぶに至る。全員がハードに戦うのがポリシーのニックスで、彼もまた身体を張っているが、今シーズンは2.5アシストとパス能力も発揮している。そしてこのペイサーズとの第5戦、ブランソンがボールを持つたびにダブルチームを送られる状況で、ハーテンシュタインは『第3のプレーメーカー』を演じ、それが7アシストとなった。
ポストプレーから器用なフックシュートを決めたかと思えば、ポケットパスでチャンスを作り出す。彼もまた今のNBAのトレンドである多彩なスキルを持ったセンターであり、なおかつトム・シボドーの苛烈なバスケをこなす身体能力と強靭なメンタルも兼ね備えている。彼がプレーオフを主力として過ごすのは初めてのこと。ニックスのセンセーショナルな躍進とともに、ハーテンシュタインへのファンの支持も急増している。