「トップからチーム全体に広げていかなきゃいけない」
NBAで優勝を争うレベルのチームを作るのに、スター選手を集める『スーパーチーム』というレシピは時代遅れになりつつある。10年近くNBAを支配してきたスーパースターたちが年齢による衰えを見せ始めたことに加え、サラリーキャップの縛りが強化されたことで、『スーパーチーム』は結果を出せなくなった。
ナゲッツは自前のタレントを揃えて2022-23シーズンの優勝を勝ち取り、今のコアをまだ数年は維持できる。セルティックスやティンバーウルブズ、サンダーもドラフトで指名した選手を育てることで、強いだけではなく継続性のあるチーム作りで成功を収めようとしている。
一方で、いまだ『勝てるタレント』を集めたチームはどうだろうか。レブロン・ジェームズを擁するレイカーズは一度は優勝したものの、その後は継続性を持てずに右往左往している。サンズは競争力のあるチームを解体して『勝てるタレント』を集めた結果、プレーオフのファーストラウンドでウルブズにスウィープ負けという屈辱を味わった。
ケビン・デュラントとブラッドリー・ビールを獲得するために、将来の資産はすべて手放した。ヘッドコーチのフランク・ボーゲルの解任が噂され、スター選手の誰か、あるいは複数をトレードに出してチームを再建すべきとの意見もある。結果が出なければネガティブな面がクローズアップされるもので、最後の試合でベンチに戻るブラッドリー・ビールが指揮官ボーゲルの差し出す手をはねのける様子が話題となり、ビールは「コーチに怒りをぶつけたわけじゃなく、自分へのイライラがああいう態度になってしまった」と釈明しなければならなかった。
チームが成功を収められなかった以上、ヘッドコーチにはその責任が問われるが、それでもボーゲルは少なくとも個性的なタレントを一つにまとめ、チーム内の不和を表面化させることはなかったし、ディフェンスが強くなるはずのないロスターで平均以上のディフェンスを見せた。彼を解任する場合、彼より優れた後任を連れてくることはできるのだろうか? その保証がない指揮官交代は、ただ継続性を断ち切るだけになりかねない。
レギュラーシーズン中にボーゲルはサンズの戦いぶりをこう自己分析している。「昨シーズンと今のサンズは全く違うバスケをしている。昨シーズンはもっと人もボールも動いていたが、今のチームはピック&ロールとアイソレーションが中心になっている。それは選手の組み合わせを確認するために必要なものだ」
モンティ・ウィリアムズ時代のサンズが武器としていたスペーシングとテンポが失われ、オフェンスの連動性は大幅に低下した。これはスターパワー増強の代償で、継続していくことで改善はできる。しかし、屈辱的な負けを喫しても継続する忍耐を持つのは簡単ではない。
来シーズンも今の体制が維持された場合、ボーゲルは今シーズンにはなかったオフェンスの引き出し、機能する選手の組み合わせを増やす必要がある。ブッカーとデュラント、ビールは、健康を保つ努力を怠らないのはもちろん、今シーズン以上にリーダーシップを発揮しなければならない。サンズの『ビッグ3』は常に一つにまとまっていたが、どこかよそよそしい雰囲気があった。デュラントは率先してリーダーシップを発揮するタイプではないし、ビールは加入1年目でケガも多かったことでチームより自分にフォーカスしていた。ブッカーはデュラントとビールがプレーしやすい雰囲気を作ることを優先して彼らに譲る部分が多かった。
簡単なことではないが、昨年に続いてまたチームを解体してゼロからスタートするよりは簡単なはずだ。ナゲッツにも今のコアメンバーで勝てない時期があった。ニコラ・ヨキッチは常にイライラしており、ジャマール・マレーもマイケル・ポーターJr.もプレーする以前にケガと向き合う時期が長かった。昨シーズンのウルブズは個性が衝突し、チーム内の不和から自滅した。ナゲッツもウルブズも、解体が選択肢にある中で継続を選んだからこそ今がある。
強いチームを作るレシピは『スーパーチーム』から『バスケIQ』に変わりつつあり、スーパースターを揃えるだけでは試合を支配できなくなっている。サンズが向き合うべきは、この部分だ。
批判と嘲笑を向けられる中では言いにくいことをブッカーは言った。「優勝できないとみんなパニックになって、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃと言い始める。でも、時間がたてばたつほど、経験は最高の先生になっていくと僕は思う。僕はもっと良いプレーをしなきゃいけない。ケビンもブラッド(ビール)もそうだ。コーチももっと良くならなきゃいけない。トップからそれを始めて、チーム全体に広げていかなきゃいけないんだ」