宮澤夕貴

宮澤「本当に充実していて、バスケットをやっていて楽しかった」

16年ぶり2度目のリーグ制覇を果たした後、富士通レッドウェーブの町田瑠唯はこう言った。

「優勝するために必要であろうことを伝えてはきましたけど、伝えきれなかった部分がありました。でも、宮澤、林、中村選手が入って、優勝するために何が必要かということをしっかり伝えてくれました。何より『このチームは優勝できるんだよ』って1番信じてくれて、自信を持たせるような声がけをしてくれていた。だから今年は、みんなが自分の役割を明確にして、今までより自信を持ってプレーできるようになったと思います」

生え抜きの選手が多数を占める中、宮澤夕貴、中村優花、林咲希はいずれもENEOSサンフラワーズから富士通に移籍してきた選手。圧倒的な優勝回数を誇る『女王』の習慣とマインドが、長らく頂点に立てずにいたチームに大きな影響を与えたというのが町田の見解だ。

2021-22シーズンより富士通に加入し、昨シーズンよりキャプテンを務める宮澤は、加入当時のことを次のように振り返る。「練習の雰囲気や取り組み方がまず違うなと感じました。練習では通っても試合会場だと観客の声で通らないから、シュートなどを数える声やディフェンスの声をもっと出さなきゃいけないよねということや、1本のリバウンド、ルーズボールを徹底することなど、細かいことをずっと伝えてきました」

キャリアを経て培った「プライベートは試合に出る」という考えに基づき、ちょっとした物の片付けなどから気を配るようにとチームメートたちに言葉をかけたという。

前述の町田の言葉の通り、優勝を経験していない富士通の面々は、実力はあるもののどこか自信のなさをうかがわせるチームだった。宮澤はENEOSと日本代表で長らく薫陶を受けたトム・ホーバス氏のアプローチを参考に、彼女たちに自信を与えようとした。

「トムさんのおかげで、自分を信じることで何倍も強くなれると分かっていましたし、自信が持てればプレーって本当に変わると思うんです。だから『みんなできる』、『自分自身も自分を信じているし、このチームを信じている』とずっと伝えてきました」

10日間で6試合という過酷な戦いとなったプレーオフで、宮澤はいずれも2桁得点を記録。富士通加入後から磨いてきたスポットシュート以外のオフェンススキルをいかんなく発揮し、町田のゲームメークを助けた。ファイナル第3戦でも18得点5リバウンド6アシストの活躍を挙げ、プレーオフMVPを受賞した彼女は、今シーズンについてこう振り返った。

「 昨シーズンはケガであまり試合に出られず歯がゆい思いをしたんですけど、自分自身スキルアップできたという自覚があるので、今シーズンはすごい充実した1年間になりました。本当に充実していて、バスケットをやっていて楽しかったです。シーズンを通して個人としても、チームとしても成長できた良いシーズンでした」

林咲希

「全員でこのチームを作り上げていくということにフォーカス」

宮澤、中村と同様にENEOSの黄金期を築き、日本代表でキャプテンを務める林は、今シーズンより富士通に加入。持ち前のコミュニケーション力で恩塚亨日本代表ヘッドコーチと選手たちを繋ぎ、チームの結束を作った林は、富士通でもチーム作りにおいて重要な役割を果たした。

「アース(宮澤)さんとニニ(中村)がすでにいてくれましたが、やっぱり雰囲気をもうちょっと良くできるのかなって最初は正直思いました。私はそういうのが得意というかできると思ったので、まず私がサポートできるのはそこかなと思いました。あとは自主練の仕方だったり、そういうところも若い子たちに伝えてきてはいたので、少しは貢献できたと思います。コート内でもやっぱり私が1番良い顔をして、良いパフォーマンスができるようにと心がけていたので、私自身も成長できましたし、みんなもすごい成長してくれました」

林の声掛けを含むふるまいは間違いなくチームに変化をもたらした。実際に宮澤も林の存在によって『個』から『集』へとチームが変貌を遂げたと実感したという。「今年は林が入ってきてくれて、さらにそうやって言うことで、みんなも『やらなきゃいけない』って変わっていきました。本当に全員でという感じになったのが今年だったなって。誰が良くて誰がダメじゃなく、チーム全員でこのチームを作り上げていくというところをすごいフォーカスしてやってきて、それが今年は変わったと思います」

林はファイナルの3試合で平均14.0得点、3.0アシストを記録。3ポイントシュート成功率も42.8%と高水準で、日本代表のエースシューターとしての実力を発揮したが、長距離砲を警戒する相手に対してカウンターでのドライブが非常に効果的だった。林のプレーはデンソーに的を絞らせないことへ繋がったが、こうしたオールラウンドなプレーは林自身の成長の産物で、宮澤と同様に移籍でプレーの幅を広げた。

「アシスタントコーチがいろいろなスキルを教えてくれました。今までもやっていたんですけど、ENEOSではスリーだけという形で、富士通になったらハンドラーもしなきゃいけないと言われました。最初はあまりできていなかったですが、やっていくうちに自分でも感覚をつかめてきました。試合を重ねていくうちに、アース(宮澤)さんとかテミ(ジョシュア ンフォンノボン テミトペ)とのピックも増えて、ここはこうだったよねっていう話も増えて、少しずつコミュニケーションも多くなっていきました。自信を持って、このプレーオフに臨めたと思います」

こう語った林に、テーブスヘッドコーチは「キキ、オールラウンダーになったよ。ピックハンドラーね、本当に素晴らしい」と声をかけた。

ENEOSで培った経験値が富士通の16年ぶりの優勝の背中を押したことは間違いない。だが、それだけではなく、宮澤や林が成長を止めなかったことがデンソーを上回る要因の一つとなったことも事実だ。