スティーブ・クリフォード

「最後まで自分の仕事をするつもりだ」

ホーネッツは現地4月3日、スティーブ・クリフォードが今シーズン限りでヘッドコーチを退任することを発表した。3年目の来シーズンの契約はチームオプションとなっていたが、チームがその判断をする前に、彼自身が決断を下した形だ。

ホーネッツのヘッドコーチは2013年から2018年までクリフォードが務め、ジェームズ・ボーレゴが率いた4年間を経てクリフォードが2022年オフに『出戻り』することになった。2018年までのホーネッツは、ドワイト・ハワードに代表される強固なディフェンスとリバウンドをベースに、ケンバ・ウォーカーのような個人の能力を生かすスタイルだったが、ボーレゴは若手を中心に走るバスケスタイルを掲げてチームを再建に乗り出した。それが頓挫した後、クリフォードは自分のスタイルとは全く違うチームを預かることになった。

それでも、ラメロ・ボールを筆頭に将来性ある若手を指導することにクリフォードは大きな意欲を持っていたのだが、この2年間で彼が直面したのはケガ人の続出に対する対処ばかり。ラメロは2シーズンで58試合にしか出場していない。クリスマスを7勝21敗で迎えたホーネッツはその後も上向かず、2月のトレードデッドラインまでにテリー・ロジアーやPJ・ワシントンといった主力を放出。早々にシーズンの目標を失うことになった。

この日に行われたトレイルブレイザーズ戦を前に会見を開いた彼は、「このリーグでコーチとして良い仕事をするのに必要な情熱や努力が今の自分に出せるのか、そのことに不安を感じてしまった」と辞任の理由を語る。「選手たちが良いプレーをするためにヘッドコーチとして必要なものを与えられているか。ここ最近でチームが良いバスケをできているか。皆さんも結果から察することができると思う。だから私は身を引く」

会見に同席したジェフ・ピーターソン球団副社長は「ケガを筆頭に、彼にはどうにもできない事態に向き合ってきた。この成績が彼のコーチとしての能力を表すとは思っていない」と言う。「選手たちにとっての彼は、いつでも問題を打ち明けられる存在だった。そして彼は相手が誰であろうと自分の意見をストレートに伝える。時に嫌な言葉も率直に口にするが、それで選手たちの尊敬を勝ち取っていた」

あまりにもケガが多発する原因を、選手たちの意識の低さやスタッフの働きが十分ではないからだとする声もあるが、クリフォードはそれをはっきりと否定した。「この2年間で悩まされたのは太ももやふくらはぎの筋肉系のケガではなく、骨折や腰など大きなケガだ。ケガは誰も責めることはできない。3年前はマイルズ(ブリッジズ)が80試合、ラメロが75試合、テリーが73試合に出場していた。彼らの意識が低いわけではないよ。ただツキがなかったんだ」

この2シーズンの成績は45勝112敗。この日のブレイザーズ戦に敗れ、負け試合の数は113へと増えた。それでもクリフォードは「振り返って反省する時間は、その後にいくらでもある。一人でワインでも飲みながらゆっくり考えるつもりだ。しかし、まだその時ではない」と語る。

「こういう結果を望んでいたわけではないが、私は自分より良い人生を送っている人をほとんど知らない。私はバスケが大好きで、試合が大好きで、コーチングも大好きなんだ。昔の私は高校でバスケを教えるつもりだった。それがNBAに来てケンバを指導し、今はラメロ、マイルズ、ブランドン(ミラー)を教えている。世界最高の選手たちと過ごす幸せとともに毎日働いているんだ。ただ、まだ終わってはいない。最後まで自分の仕事をするつもりだ」

クリフォードはホーネッツのヘッドコーチを退任する。62歳という年齢を考えると、彼にとってはこれが最後のコーチとしての活動になるだろう。だが、それで彼が大好きなバスケから離れるわけではない。ホーネッツは彼をアドバイザーとしてフロントに加える。クリフォードはこう言った。「長くコーチをやってきたが、フロントは未経験なんだ。エキサイティングな挑戦になるよ」