ジャマール・モズリー

パオロ・バンケロ「モーズは選手を高めてくれる」

マジックはヘッドコーチのジャマール・モズリーと新たに4年の契約延長に合意した。ジェフ・ウェルトマン球団社長はこのリリースの中で、「ジャマールと彼のスタッフは、今シーズンだけでなく2021年にここに来てから常に素晴らしい仕事をしている。彼の仕事に対する姿勢、選手と心を通わせる働き方が、コート内外で良い結果をもたらしている」とコメントしている。

マジックはニコラ・ブーチェビッチやアーロン・ゴードンが主力だった2018-19シーズンが、過去11シーズンで唯一の勝率5割超え。この年と翌シーズンにプレーオフに進出するも、いずれもファーストラウンド敗退という下位の常連だった。そのマジックに2021年オフ、モズリーが就任する。チームはこのタイミングでブーチェビッチとゴードン、エバン・フォーニエなどこれまでの主力を放出し、本格的な再建をスタートさせた。その際に集められたのは、派手な得点能力はなくてもディフェンスでハードワークできる若手たち。複数のポジションを守ってリバウンドにも強い選手を揃え、エース不在でもチームで戦えるロスターを作った。

モズリーはこの時がヘッドコーチ初挑戦。その前はマーベリックスでリック・カーライルの右腕を長らく務め、ディフェンス戦術の構築を担当していた。ただ、彼の評価は守備面だけでなく選手とのコミュニケーション能力にあった。厳格で選手と距離を置くカーライルは最終的にエースであるルカ・ドンチッチとの関係が冷え、選手からの支持を失って解任されるが、これは常に選手の側に立ってバランスを取るモズリーがマジックに引き抜かれた影響も大きいはずだ。

モズリーはマジックのヘッドコーチとして、そのコミュニケーション能力を大いに発揮した。『ボス』となったからには、選手の側に立つだけではなく、時には厳しい態度を取る必要もある。彼はここでエース不在のマジックで若手に厳しいチーム内競争を強いながら、選手同士が対立することを避け、チーム一丸で戦う集団を作り上げた。

モズリーがマジックの若手たちに植え付けたのは、チームワークとハードワークの精神だ。「ウチは守備のチームであり、勝つために必要なのはシュートが決まっても決まらなくても集中して守備をやり続けることだ」と彼は繰り返している。選手は本能的にシュートを決めるのが楽しいものだが、今のマジックではどの選手も「ディフェンスから良い流れを作り、トランジションでイージーシュートのチャンスを作ること」に楽しみを見いだしている。すべての試合でチームワークとハードワークを徹底し、それが結果に繋がることを楽しみ、新たなモチベーションへと変えている。

2022年のNBAドラフト全体1位で指名したパオロ・バンケロが今はエースに収まったが、彼もまたチームワークとハードワークの選手であり、ディフェンスとリバウンドとルーズボールに汗をかくことを厭わない。今シーズンのルーキーであるアンソニー・ブラックも同じで、シックスマンとしてチームワークとハードワークに徹している。

このチームカラーは間違いなくモズリーがもたらしたもの。3年目の今シーズンはここまで37勝28敗で、勝率5割超えとプレーオフ進出を決めるのは時間の問題となっている。ただ、彼の仕事はまだ終わっていない。東カンファレンスは4位ニックスからマジック、セブンティシクサーズ、ペイサーズ、8位のヒートまでが2ゲーム差にひしめく大混戦。そしてマジックは、下位チームへの取りこぼしは少ないが上位チームとの対戦で勝てていない傾向にあり、その傾向はシーズンが深まるにつれ強くなっている。

直近では順位争いのライバルであるニックスとペイサーズに連敗。ディフェンスを前面に押し出してのチームワークとハードワークという強力なスタイルを作り上げたが、プレーオフを勝ち抜くための戦い方はこれから作り上げていく必要がある。それでも、エースのバンケロが「モーズ(モズリー)は選手を高めてくれるコーチだ。契約延長が決まってうれしいし、彼はそれに値する」と指揮官に全面的な信頼を寄せ、プレーオフ経験が豊富なベテランのジョー・イングルスも「このチームはよく学び、よく実践する。プレーオフでの戦いにもアジャストできるはずだ」とここからの成長に自信を見せる。

急成長するマジックは、レギュラーシーズンのラスト1か月でさらに伸びる。プレーオフをどんな状態で迎えるか、そこでどんな戦いを見せられるかが楽しみだ。