「僕は黙ってプレーすることを選んだ」
オールスターブレイクを前にウォリアーズは敵地でジャズと対戦した。クレイ・トンプソンはこの試合で、ルーキーシーズン以来となるベンチスタートを経験した。前日にはクリッパーズ相手に手痛い終盤の逆転負けを食らい、連勝が5でストップ。クレイは30分の出場で3ポイントシュートを9本放って1本しか決められず、ステフィン・カリーが41得点を記録した一方でオフェンスのブレーキに。しかも、勝負どころで不用意なファウルを犯しており、彼のもう一つの持ち味である堅実なディフェンスも失われていた。
そして指揮官スティーブ・カーはクレイをベンチに回すという非情な決断を下す。「クレイのベストを引き出す意味でも、チームのベストを引き出すためにもバランスの良い選択だと思う」と語った。
クレイのベンチスタートは2012年3月11日以来のこと。連続先発出場は727試合で、デマー・デローザン、デイミアン・リラード、カリーに続くNBA4番目の記録がここで途絶えた。今から12年前、ルーキーだったクレイはモンタ・エリスのトレードとカリーのケガで巡ってきたチャンスを生かして先発の座を確保。カリーが復帰するとともに誕生した『スプラッシュ・ブラザーズ』は、それからウォリアーズに数々のタイトルをもたらしてきた。
2019年のNBAファイナルでの左膝前十字靭帯断裂、そのリハビリ中にアキレス腱断裂と大きなケガを2度重ねたクレイは、2年半のブランクを経験した。2021-22シーズン途中に復帰し、以前と変わらぬプレーを取り戻したものの、今シーズンは不調が長引いていた。34歳でのパフォーマンス低下はキャリアの危機とも言える。先発を外れるより先に、クラッチタイムの勝負どころでベンチに下げられる屈辱を何度か味わっていた。
長い黄金期が終盤を迎え、それをどこまで続けられるかの挑戦をしているウォリアーズに対し、若くエネルギッシュな力で再建チームとしては理想的なバスケをするジャズは強敵だった。しかもこの日のジャズは3ポイントシュート49本中22本成功とシュートタッチが絶好調。特にルーキーのキヤンテ・ジョージは9本の3ポイントシュートを決め、伸び盛りの力を爆発させていた。
これに対し、ベンチスタートのクレイが対抗する。ベンチスタートとは言え、試合開始から5分でコートに送り出された彼は積極的にシュートを放ち、第1クォーターだけで10得点、第2クォーターには7得点を挙げる。第3クォーターにはさらに調子を上げ、3ポイントシュート5本中4本成功を含む18得点を記録。第4クォーターは無得点だったものの、終盤の勝負どころでディフェンスで魅せる。3点リードの残り1分14秒、キヤンテ・ジョージのスピードに乗ったドリブルに対してリムへの進路を空けず、ファウルにならないよう身体を寄せてトラベリングを引き出した。得点だけではない、昨日の不本意なパフォーマンスに対するリベンジだった。
両チームともシュート好調のスリリングなオフェンス合戦を、ウォリアーズが140-137で制した。ゲームハイの35得点を記録したクレイは、ベンチスタートについて「今朝、スティーブから聞かされた。異議を唱えることもできただろうけど、僕は黙ってプレーすることを選んだ」と語る。
「ベンチから出るからにはエゴを捨てなければいけない。僕が考えたのはマヌ・ジノビリのことだ。彼はNBAの優勝リングを4つ、オリンピックの金メダルも持っているけど、キャリアを通してベンチから出ていた。彼のように偉大な選手でありたい。そう思ってベンチスタートを受け入れた」
クレイはこう続ける。「先発を外れること、記録が途切れることについてどんな記事が出て、人々がどう反応するかを気にしている時は、チームメートへの思いやりや僕がこれまでやってきたような自由にプレーする気持ちを忘れている時だ。気分の悪いままオールスターブレイクを迎えたくはなかった。セカンドユニットの一員として走っている時、自分がそのオフェンスの中心としてプレーするのを楽しもうと思った。自分が王者であることを証明したかった。今日はその気持ちが上手く働いたし、これを残りのシーズンを通して発揮したい」
ドレイモンド・グリーンは闘争心が行きすぎる悪癖と向き合い、大きな失態を経て今のところは精神的なバランスを取り戻している。アンドリュー・ウィギンズとジョナサン・クミンガは一緒にプレーできないと言われたが、コミュニケーションは少しずつ改善している。ゲイリー・ペイトン二世はようやくケガが癒えてリズムをつかんだ。そしてクレイは王者としての自信と尊厳を取り戻そうとしている。ウォリアーズは様々な課題を一つずつ乗り越えている。苦戦は続いていても、その視界の先に見据えるのは現体制で5度目となるNBA制覇だ。