デニ・アブディヤ

指揮官交代を機にアブディヤとキスパートがブレイク

ウィザーズはウェス・アンセルドJr.を事実上解任し、ブライアン・キーフにチームの舵取りを託した。その後もチームが勝てるようになったわけではなく、連敗記録を打ち立てたピストンズにわずか1ゲーム差まで迫られているが、いくつかのポジティブな変化は見られている。

その一つが戦うメンタリティを取り戻したこと。攻守ともにプレーが軽く、粘り強さを欠き、劣勢になるとすぐあきらめてしまう欠陥は消えつつある。チームで最も年俸の高いジョーダン・プールは、SNSで揶揄されるような軽いプレーを相変わらずしているが、それでもチーム全体のプレー強度が上がる中で、多少なりとも改善の傾向は見られる。

変化のもう一つは、デニ・アブディヤとコーリー・キスパートだ。2020年の1巡目9位指名のアブディヤ、2021年の1巡目15位指名のキスパートは、自前で育てているチームの秘蔵っ子。キャリア4年目と3年目の2人は、これまでは重要な役割を与えられなかったが、この数週間でチーム内での役割も責任も増し、その期待にパフォーマンスで応えている。

アブディヤはスモールフォワードとして今シーズン出場した54試合すべてに先発しているが、指揮官交代を機にボールタッチが増え、彼を使うセットプレーも増えた。相手のエースをマークすることも多く、攻守両面で責任が増している。そして現地2月14日のペリカンズ戦ではキャリアハイを更新する43得点を挙げた。

205cm95kgの身体は細く見えるが、その強みはペイントアタックで相手ディフェンスに競られていてもフィニッシュに持ち込む力強さと技術のバランスの良さにある。この試合でも3ポイントシュート10本中6本成功とタッチは良かったものの、ゴール下まで飛び込める強さと積極性のインパクトのほうが強かった。だからこそ相手を引き付けてのアシストも決まるし、フリースローも増える。

ザイオン・ウイリアムソン、ブランドン・イングラムを相手にペイントを守る力強さも見せた。さらにリバウンドはゲームハイの15。チームは126-133で敗れたが、序盤で20点ビハインドとなった試合を競った展開まで引き戻す上でアブディヤの攻守の働きには大きな意味があった。

「僕のオフェンスは、まずディフェンスで相手と競って、止めて、リバウンドを取ることで始まるんだ」とアブディヤは言う。「シュートの調子とは関係なく、常にディフェンスとリバウンドを意識している。周囲の状況をよく見て、チームメートと連携して、ディフェンスからオフェンスへと繋げる。その意識が僕を動かしているんだ」

キスパートは2年目の昨シーズンに先発の座をつかみかけたが、今シーズンはシックスマンの役割を与えられている。アンセルドJr.の下ではセカンドユニットの中でも脇役だったが、今はセカンドユニットのリーダーで、今月に入ってプレータイムも各種スタッツも大幅に伸ばしている。彼もまた技術的に大きく成長したというよりも、戦う姿勢を前面に押し出すことで評価を勝ち取り、コート上で結果を残している。

ペリカンズ戦でのキスパートは、カイル・クーズマが体調不良で欠場したこともあるがプレータイムを32分まで伸ばし、アブディヤに次ぐ20得点を記録。4リバウンド6アシストと、彼もまたマルチな活躍を見せている。

「戦う気持ちはコーチがまず最初に求めるものだ。ハードに戦わなければ試合に出ることはできない」とキスパートは言う。「第2クォーターで20点差を付けられたら、少し前なら僕たちはロープを手放し、30点差、35点差で負けていただろう。でも今は違う。だから負けたとしてもチームが前進している兆候は見せられたはずだ。本来であれば勝利がついてくるのが一番だけど、このチームは変わりつつある」

アンセルドJr.の更迭は遅すぎたかもしれないし、トレードデッドラインの動きも十分ではなかったかもしれない。だが、もう何年も見られなかった『チームが前進している兆候』がウィザーズにはようやく出つつある。アブディヤとキスパート、チーム生え抜きの2人には今後より大きな期待がかかる。