リムアタックの迫力がアシストしやすい環境を生む
ペリカンズはここまで31勝22敗、西カンファレンスの第2集団に位置する6位につけている。エースのザイオン・ウイリアムソンを筆頭にケガがちな選手が多いチームではあるが、このところはフルメンバーで戦えており、そのことがチームの連携を高めるのに寄与している。
そんなチームの成長を邪魔しないために、フロントはトレードデッドラインでの変化を避けた。1月中旬にカイラ・ルイスJr.をラプターズに放出してラグジュアリータックスを回避した後、それに続くトレードは実現しなかった。デイビッド・グリフィン副社長は「今のチームにいる選手よりも優れており、チームが良くなると確信できなければ動きはしない」と語る。噂になっていたデジャンテ・マレーについては実際に交渉があったと認めながら、ホークスの要求が高すぎて成立しなかったと明かす。
そしてグリフィンは今のチーム、特にザイオン、ブランドン・イングラム、CJ・マッカラムのコアメンバーに満足していることを強調する。「ザイオンの成長ぶりは素晴らしい。メディカルスタッフの仕事ぶりにも感謝している。すべては彼から始まり、一つのプレーからより大きなプレーに繋げられる。CJとブランドンも含め、彼らはトリオとして良いプレーをするために多くの努力を重ねてきた。あの3人は練習だけじゃなく、食事も一緒に行っている。そういった積み重ねがコート上でのパフォーマンス向上に表れているのは喜ばしいことだ」
ここに来てペリカンズのプレーには一つの面白い変化がある。ザイオンがハンドラーを務める機会が明確に増えていることだ。ザイオンは巨体ながら俊敏で、その運動能力を生かしたリムアタックの迫力ばかりがクローズアップされるが、周囲の状況をよく見て正しいプレーを選択する能力も高い。現地2月7日のクリッパーズ戦では10アシストを記録。この時に彼は「相手のディフェンスがどう出てくるかを見て、チェスのように盤面をコントロールしているんだ」と事もなげに語っている。
ザイオンのキャリア2年目となる2020-21シーズンの途中、当時チームを率いていたスタン・ヴァン・ガンディは「ザイオンはセンターではない。インサイドでもプレーできるが、基本的にはペリメーターの選手だ」と言い、さらにザイオンのバスケIQをより生かすために『ポイントフォワード』の役割を与えた。ロンゾ・ボールが作り出す速い展開に乗り、彼がアクセントを加えて効率の良いオフェンスを作り出す。このバスケはそれなりに機能したが、本当にチームにフィットするまで我慢して使われることなく、ヴァン・ガンディは早々にチームを去った。
ザイオンのアシストはキャリア1年目の2.1からヴァン・ガンディの下でプレーした2年目には3.7に、その後も今シーズンの4.8へと右肩上がりに向上している。特に直近の9試合では9アシスト以上を3回記録。それ以前にザイオンが1試合9アシスト以上を記録したのはキャリアで2回だけだったから、ここに来て急激に彼のアシストは増えたことになる。
3年ぶりに『ポイントフォワード』となったザイオンからパスを受ける立場のトレイ・マーフィー三世は「相手ディフェンスからしたら本当に守りづらいはずだ」と話す。「あのパワーとスピードでリムに突っ込んでくるだけでも脅威なのに、そこからチームメートを絡めてプレーするようになれば、もう別次元だ。ザイオンがどこにいても相手ディフェンスはついていくしかない。そうなれば攻めるためのスペースが広がる。彼はそれを理解し、そこから駆け引きを優位に進めるんだ」
イングラムもマッカラムも攻撃をクリエイトする能力は備えているが、ザイオンが起点となることで相手ディフェンスとの駆け引きで先手を打てる。ザイオンのボールタッチが増えることで、彼がリズムをつかみやすいというメリットも大きい。3シーズン前には途中で頓挫した試みは、今回どんな結果を出すのだろうか。