ジェイレン・ブランソン

「今夜の経験は僕にとって素晴らしいものだった」

ニックスはチームリーダーのジュリアス・ランドルが肩の脱臼でしばらく戦線離脱することになり、ミッチェル・ロビンソンは足首のケガで長期欠場中。さらにOG・アヌノビーとクエンティン・グライムズもケガをして、主力4選手を欠く非常事態となった。それでもチームは8連勝中で、この勢いを止めたくなかった。

この状況で、ペイサーズがジェイレン・ブランソンを徹底的にマークし、激しいディフェンスで抑え込もうとするのは当然だった。ファウル覚悟のコンタクトもいくつかあり、それに笛が鳴らないことにフラストレーションは溜まっていく。普通の選手であればキレてもおかしくない状況で、ブランソンは判定への不満を態度に出しながらも、プレーには出すことなくチームを引っ張り続けた。第2クォーター途中、彼がベンチで休んでいる間に最大15点のビハインドを背負ったものの、そこから粘り強く挽回していく。

そして第4クォーター残り8分半にコートに戻った彼は、3ポイントシュートを沈めて91-91の同点とすると、続く2本のシュートもきっちり決めてペイサーズに2度のタイムアウトを使わせる。だが、残り2分にピンチが訪れた。自陣でボールを持ったブランソンに、ペイサーズはアンドリュー・ネムハードとジェイレン・スミスのダブルチームを送り込む。ドライブでかわそうと重心を低くしたブランソンの顔面を、ネムハードの手が叩く。意図した接触ではなかったが、目を叩かれたブランソンはコートに倒れ込んで悶絶した。しかし笛は鳴らず、ボールを拾ったスミスが誰にも邪魔されることなくダンクを決めて、ペイサーズが100-99と逆転した。

だが、ブランソンは屈しなかった。その直後、ネムハードのマークをかわし、アーロン・ネスミスのファウルを受けながらも再びニックスにリードをもたらすフローターを決める。ラフプレーが見逃された時は総立ちで怒っていたマディソン・スクエア・ガーデンの観客たちは、再び総立ちとなってブランソンのガッツを称えた。ボーナススローは外れたが、このリバウンドをアイザイア・ハーテンシュタインが気迫で押さえ、ドンテ・ディビンチェンゾの得点に繋げる。さらにパスカル・シアカムのシュートをプレシャス・アチウワがブロック。ディビンチェンゾのシュートが外れたところをアチウワがタップで押し込み、ブランソンが倒れたシーンから7-0のランでペイサーズを振り切った。

こうしてニックスが109-105で勝利。ブランソンは37分のプレーで40得点を挙げ、コート上でのインタビューでは「楽しい試合だった」と話した後、ファンの大歓声に聞き入った。この試合が始まる前に、彼には初のオールスター選出という朗報が届いていた。そのことを問われると、ファンの歓声がさらに高まる。自分に降り注がれる『MVPコール』にブランソンは感極まり、「言葉が出ないよ」と言うのがやっとだった。

ロッカールームに戻ってシャワーを浴び、着替えて感情を落ち着かせたブランソンは、ようやく喜びを語ることができた。「家族や妻、チームメート、コーチ。すべての人に感謝している。僕にとっては最高の瞬間だ」と彼は言う。彼は試合に集中すべく、オールスター選出のニュースを見ないままコートに入ったのだが、コートサイドにいる父の表情を見て察したと言う。目を叩かれたプレーにファウルの判定がなかったことには「ノーコメント」と素っ気なかったが、「今夜の経験は僕にとって素晴らしいものだった」と語った。

ディビンチェンゾは「彼はオールスターに相応しい。それどころか、どの試合でもMVP級のプレーをしている」とブランソンを称える。「彼はチームが勝つためにできることすべてをやっている。ジュリアスとOGがケガをして、ミッチ(ロビンソン)も不在で、すべてが僕らに不利な状況であっても、彼は勝つことだけを考え、行動している」

ブランソンがチームを引っ張り、勝負どころではブランソンだけでなくすべての選手が勝つために必要なプレーをした。ジョシュ・ハートはこう言う。「守りきる、リバウンドを取る。僕らはそういう仕事に誇りを持っている。リーダーがやることはチームのスタンダードになる。彼は僕らのリーダーであり、僕らのためにスタンダードを定義してくれるんだ」