「大事なのは攻める姿勢を見せて、それを伝えること」
昨シーズンのマーベリックスは1年を通じて勝てない時に「ジェイレン・ブランソンを引き留めていれば」という後悔の声が挙がり、最終的にはプレーオフ進出を逃した。2022年オフ、ルカ・ドンチッチの最高のサポート役だったブランソンは契約満了に伴い退団し、マブスは昨シーズンを通してその穴を埋めることができず、それが失意のシーズンに繋がった。
今もニックスとの対戦では、「ブランソンを引き留めていれば」との思いがマブスファンには浮かぶ。現地1月11日の試合で、そのブランソンが退団後初めてアメリカン・エアラインズ・センターでプレーした。試合前の選手紹介の際、ブランソンの名前がコールされるとマブスファンは歓声で彼を出迎えた。「離れることになったけど、ダラスは今も僕にとって特別な場所だ」と、ブランソンもまたマブスへの愛情を忘れてはいなかった。
この試合ではドンチッチが足首の痛みで欠場した。ここで負ければ、マブスファンはまた「ブランソンを引き留めていれば」の思いに駆られていただろう。しかし、ついにその思いは払拭できたのかもしれない。128-124で勝利したチームを引っ張ったのは44得点10アシストのカイリー・アービングだった。
カイリーはブランソン退団の半年後、昨シーズン途中にネッツからトレードでやって来た。昨シーズン後半は個人のパフォーマンスは優れていてもチームにフィットせず、マブスがプレーオフ進出を逃したという結果もあって、ファンの期待に応えられたとは言い難い。それでも2年目を迎えた今、彼はドンチッチと共存する方法を見いだした。これまでよりボールを持つ時間も回数も減り、よりシンプルなプレーを心掛けつつ、NBAでもトップレベルの自分のオフェンス能力を生かせるようになった。そしてドンチッチ不在となったこの試合では、その個人能力を遺憾なく発揮してもいる。
カイリーは言う。「ボールをプッシュしてチームを動かすことを意識していた。大事なのは攻める姿勢を見せて、チームメートにそれを伝えること。ルカがその仕事をしている時は、僕はチームメートとしてそれを支える。みんなそれぞれチームメートの助けが必要で、誰かがプレーできなければ別の誰かがやる。ルカがいなかったら僕がその役割をこなすだけさ」
マブスファンもそろそろ「ブランソンを引き留めていれば」の幻想から抜け出すべき時だ。ブランソンがマブスを去ったのは、お金の問題だけでなく、ドンチッチに次ぐ2番手のままでは自分の成長がストップしてしまうという危機感があったからだ。ニックスではエースとして自分中心のチームが作られる。ドンチッチがいる以上、マブスがブランソンにそれと同等のチャンスを与えるのは不可能だった。
その代わりにマブスはカイリーを得た。オフェンス能力ではブランソンどころかドンチッチ以上で、実績も豊富。かつてはレブロン・ジェームズの2番手に甘んじることを嫌って移籍を選択したが、今はドンチッチとの共存を受け入れてチームを勝たせることに集中している。そのカイリーは、2日前のグリズリーズ戦で不甲斐ないパフォーマンスを見せたマブスに喝を入れ、悪い流れを断ち切った。
「時には不甲斐ない試合をやってしまうこともある。恥をかくのもNBAの一部分なんだ。でも大事なのはそこからどう立ち直るかだ」とカイリーは言う。「次に大事なのはこれからの48時間をどう活用して次の試合に臨むかだ」