恩塚亨

「勝つためにどうしたらいいのかに集中したことで、ノイズは消える」

――代表のヘッドコーチとなって1年以上がすぎたことで選手との関係も深まり、接し方に変化が出てきましたか。

どんな言葉をかけたりするのか、それは人それぞれで違いはあります。僕はワクワクすることが大切だと思っているのですが、最近はワクワクの話をあまりしないですね、と言われることがあります。自分の根っこは変わっていませんが、代表でプレッシャーを感じている選手たちに、ただそれだけを言っても刺さりません。だから、どういう切り口で伝えれば、選手たちによりワクワクを与えられるようになるのかを努力しています。やり方は変わってきました。

ただ、選手との意見交換に関しては全く変わっていないです。就任当初から選手の意見を聞く、話し合うことはすごく大事にしています。その中でチームとしての文化が醸成されていることで、特に選手同士のコミュニケーションは高まっています。アジアカップでも、『こうやった方がいいと思う』というのを、選手同士で言えるようになっています。前は僕が言ったことに対し、『やります、分かりました』というだけだったのが、自分たちから僕に対して、選手同士で意見を発するやりとりが増えました。それは大きく変わってきています。

――代表ヘッドコーチの前は、長らく東京医療保健大で指揮を執っていました。365日関与できる大学と、活動期間が限られる代表チームの違いへの適応は難しいですか。

結論から言うと、アジャストはできます。 実際に今シーズンで言うと、日本の課題が分かって相手チームのやって来ることもクリアとなり、質や強度も見えました。それに対してどうしたらいいのかと、アジャストしてアジアカップは優勝まであと1歩でした。そしてアジア競技大会では、アジアカップから2人の中心選手が復帰した中国に対し、日本は逆に4人減りました。その状況でアウェーでも最後まで戦えたのは、アジャストができていた結果だと思います。

難しさは結局、どこも一緒です。大学生、代表チームとそれぞれの難しさは絶対にあります。与えられた条件で勝つためには何をしたらいいのか。それを考えることに関しては、特別な違いは感じないです。

――東京五輪では銀メダルの偉業を達成しました。世界のバスケは当時と大きく変わり、日本もそれに応じたアップデートが必要です。しかし、東京五輪の幻影を追い求め、変化に批判的な外野の声もあります。そういったノイズへの対応は難しかったですか。

それは、僕も選手にもあったと思います。ただ、結局は本当にいろいろなことを考えて勝つためにどうしたらいいのかに集中したことで、ノイズは消えるというところに行き着きました。だから今の僕は代表の指揮を任されている中、選手たちと共に世界と対峙し、勝つために最も必要な方法、チーム構成を作って指針に沿ってやり抜く。そこだけにフォーカスしているのでノイズは気にならないです。

恩塚亨

「最初から最後まで戦い抜いて、パリへの切符を勝ち取って帰ってきます」

――この心境に至るまでに揺らぎはなかったですか。

ありました。もちろん苦しい時期もありました。人間の根っこの部分で、人に嫌われることはやっぱり嫌です。そういう弱さが自分もあったと思います。もっと言うと、これまでわりと順調にいろいろと出来ていたので、そういう経験も少なかったです。だから、少しのことでも大きな痛みを感じてしまう状況にありました。

ただ、実際に痛みを感じてみて、本当に自分は何をしたいんだろう、何のためにここにいるんだろう、と考えてみた時、シンプルに人に嫌われるのは怖かったなと。だからといって行動が変わることはないですが、あらためて何に集中するのか。勝つために任せてもらっている仕事に100%コミットすることに向き合う。その思いがより強まりました。

――OQTへ向けた戦略面でいろいろな準備をしていくのと同時に、メンタル面ではどういう状態に持っていきたいですか。

勝つために最善の手を打ち続けるしかないです。そのためには選手が輝く心の状態にしないといけない。プレッシャーとの向き合い方、プレー面で不安やしこりがないよう準備する。これが我々のやろうとしているバスケットで、これをやったら勝てるよね、という状態にする。そのための準備を今ひたすらしています。

――OQTは、これまでにないプレッシャーがかかります。そこへの対策は重視していますか。

準備の段階から、よりプレッシャーがかかる状況を設定したり、心の置きどころ、 持ち方は大切にしたいと思っています。一方で、大きな試合の前によく選手と話すことですが、どんな試合でもやることは変わらない、相手の妨害を超えて自分たちのやってきたバスケットをやり抜くだけだと伝えます。

タフな試合に必要なのはエネルギーで、ベンチも含めてチーム一丸となることでよりエネルギーが出せるようになる。その気持ちを持つことで、ブレずに戦えるようになるよね、といつも話をしています。

――最後にOQTに向けた意気込みをお願いします。

期待されていることはチーム全員が本当に理解しており、大切に思っています。応援してくれている皆さんも同じ気持ちで戦ってくれていると思っています。その気持ちをしっかりハンガリーに持って行って、ワンプレー、ワンプレー、最初から最後まで戦い抜いて、パリへの切符を勝ち取って帰ってきます。