藤田弘輝

「人件費が2倍、3倍のチームを倒してやろうという考え方はあまり良くなかった」

昨季の仙台89ERSは6シーズンぶりとなったB1での戦いを19勝41敗で終えた。しかし、今シーズンはここまで7勝7敗と上々のスタートを切っている。他のクラブと比べ、決して多くない限られた補強費の中、就任3年目を迎える藤田弘輝ヘッドコーチは、強靭なメンタルとハードワークを浸透させてチームを着実に進化させている。仙台躍進を牽引する指揮官に序盤戦の振り返りと、これからの意気込みを聞いた。

――前編で話してもらった阿部諒選手に限らず、昨シーズン途中に加入した青木保憲選手など、仙台に来てより大きな責任を与えられることで輝いている選手たちが目立ちます。

単純にヤス(青木)は、前のチームで3番手のポイントガードだったのが、仙台に来て今ではキャプテンとしてチームを引っ張ってくれています。今シーズンの阿部ちゃんも含めて、選手がどんどんステップアップしてくれているのを見ているのはすごくうれしいです。また、(渡辺) 翔太も故障が2年続いていましたが、今シーズンにカムバックしてすごく良いプレーをして、プレータイムを伸ばしています。すべて彼ら自身の努力の賜物ですが、選手を引き上げることはコーチとしてすごくやりがいがあります。

――バイウィーク中、特に取り組んだ修正ポイントはありましたか。

いくつかありますが、ディフェンスは今までのコンセプトをやり続けて、もっと強調していきながらブラッシュアップをしました。オフェンスも今までやってきたことを磨きつつ、少し付け加える部分がありました。大きく言うと、この2つのポイントに取り組みながらバイウィークを過ごしました。

――シーズン30勝の目標に到達するためにも、年内までに貯金をいくつか増やしたいなど、短期的な目標を持っていますか。

あるわけないじゃないですか(笑)。 この時までに何勝何敗でいけたらとか、それは言えたらかっこいいですけど、そういうプランを作ってもその通りには行かないものです。目の前の試合、一つひとつのプレーに集中していくだけで、その結果として最終的に30勝以上を挙げることができたら、ミッション達成だと思っています。

――先日、リーグから昨シーズンの各クラブ決算発表が行われ、トップチームの人件費も明らかになりました。藤田さんの中で「自分たちの倍以上も人件費が高いチームを倒してやろう」といったモチベーションの作り方はありますか。

昨シーズンはわりとそういう方向に行ってしまいましたが、今シーズンはそういった部分をあまり強調していません。自分たちより人件費が2倍、3倍のチームを倒してやろう、というのは考え方としてあまりよくなかったと思います。それによってカリカリしてしまったり、もっと相手に対してリスペクトが必要だったという反省がすごくあります。現状は理解していますが、そこにマインドセットをしたくはない。置かれた状況に関係なく、どのチームを相手にも一歩も引かないプレースタイルで勝ちに行く。ガツガツ行きたいと思っています。

――各チームの人件費が高騰し、より質の高い外国選手が来てリーグ全体のレベルが上がっています。それによって若手がB1のレベルにアジャストするのはより大変になっていると感じますか。

それは間違いないですし、本当に難しい問題です。育成をしたいですが降格もありますし、勝つのが仕事なので、コーチがどんどん若手を使うのは簡単なことではないです。ただ、練習をどれだけやっても試合に出ないと伸びていかないと思います。若手の育成はすごく大事なポイントですし、悩ましいところですね。

藤田弘輝

「強度を大事にするので、全員がステップアップしていくことが重要です」

――仙台はどんな相手にも真っ向勝負で行くスタイルで、このブレない姿勢が結果に繋がっていると思います。一方で相手によっては臨機応変にスタイルを変える戦い方も必要だと思いますが、そう感じたことはありませんか。

基本的にはどのチームに対しても、自分たちのスタイルは変えたくないという強い芯があります。チームの調子が落ちてしまった時に修正するには、自分たちが立ち返ることのできる芯が必要です。それがないと崩れていってしまうと思います。そして、ブレずにやり続けることはチームにとって大きな力となります。個人的には、コーチとしてこの思いが強すぎることで、ちょっとした工夫やアジャストができずに勝たせることができなかった試合もあります。そこは自分がもっと成長しなければいけない部分です。

――これからリーグ再開にあたって基本的なプレーの遂行力を上げていく以外で、仙台がよりステップアップするには、どういうところが大事になりますか。

1番大事なのは、ケガなく過ごすことです。自分たちは強度を大事にしているので11、12人のロスターで試合に入り、全員がステップアップしていくことが重要です。それができるとタイムシェアや細かいローテーションに繋がります。そして体力も維持できて、40分間を通して強度を保つことができます。

――では最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。

良い時も悪い時も応援してくださる皆さんがいるからこそ、僕たちはバスケットボールができていると本当に思っています。これからも良いエナジーを持ってバスケットに向かう姿勢を継続し、ナイナーズらしい戦いをできればと思っています。僕たちと一緒に走ってください。

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