「チームの勝利のためなら何でもする」を実践
クリス・ポールにとって『その時』がやってきた。ウォリアーズに移籍して迎えたシーズン、開幕3試合目にして初出場となったドレイモンド・グリーンと入れ替わる形でスタメンを外れたのだ。NBAキャリア19年目、レギュラーシーズンとプレーオフを含めて1365試合に先発出場していたポールが、初めてティップオフの瞬間をベンチで迎えた。
NBAのスター選手はプライドが高い。だからこそ厳しい競争に打ち勝つだけの努力を長年に渡り続けていられるとも言える。しかし、38歳となってこれまで数多くの栄誉を手にしてきたポールに唯一足りないのはNBA優勝のタイトルだけ。そのために先発を外れる必要があるのなら、彼はそれを受け入れる。
ウォリアーズ加入が決まった時点で、それは既定路線だった。ステフィン・カリーとのガードコンビはオフェンスでは魅力的でもディフェンス力を欠く。ベストコンディションを長いシーズンの最後まで維持する意味でも、起用法の変更は必要だった。彼自身、今シーズン始動の時点で「僕が唯一こだわるのは勝つことであり、チームの勝利のためなら何でもする。コーチ陣と一緒に話し合ってどうなるか見極めようとしている」と語っている。
彼が最後に先発を外れたのは今から15年前、『リディーム・チーム』と呼ばれたアメリカ代表でのこと。ここでも彼は先発だったが、ある試合でチームバスに乗りそびれてティップオフに間に合わなかった。
そして今回、スティーブ・カーは「クリスはここに来てから文字通りすべてを受け入れてくれた」と彼の姿勢を称える。「今回も先発ではないことを朝に伝えたら、普通にうなずいて、それで終わりだ。彼はそれを大したことじゃないと受け入れてくれた。かつてのアンドレ(イグダーラ)もそうだったが、実績あるベテランの自己犠牲はチームの雰囲気を良くする。今のチームの雰囲気はクリスが作り出している」
クリス・ポールに葛藤がなかったはずはない。ただ、彼はそれを受け入れた。そして、ベンチスタートであっても自分のベストを尽くし、実際に素晴らしいパフォーマンスを見せた。27分の出場は、先の2試合よりやや短いが、その中で8得点5リバウンド7アシスト1スティールを記録し、ターンオーバーは1つだけ。コートに立てば、いつもと変わらぬ『コートの支配者』の姿があった。
先発とベンチスタートの違いについて「完全に異なるよ」とポールは言うが、「でも、結局はバスケットボールであることに変わりはない」と続けた。
彼はまた先発に戻るだろうし、ベンチスタートとなる試合もまた出てくるだろう。この日の彼が証明したのは、セカンドユニットを引っ張る役割も完璧にこなせるということだ。ポールがコートに立った時間帯の得失点差は+22で、これはコート上の誰よりも良い数字だった(カリーは31分出場で24得点を挙げたが、得失点差は-2だ)。それだけではなく、10人ローテーションで戦ったウォリアーズのセカンドユニットは、ポール以外の4人も得失点差がプラスになった。対戦相手が層の薄いロケッツで、セカンドユニット同士の時間帯に大きな差があったのは間違いないが、ポールのセカンドユニット起用は今後、ウォリアーズの大きな武器となるかもしれない。