アメリカ代表

ディフェンスを無視してオフェンスのみを考えたような試合運び

アメリカ代表はスーパースターを集められない代わりに『スーパースターの卵』と『チームの潤滑油』となる選手を集めましたが、優勝したドイツだけでなくリトアニアとカナダにも敗れ、5勝3敗という勝敗で大会を終えました。強豪国と言える相手に勝ったのはイタリアのみ。4位という成績以上に内容の悪さが目立ちました。

フィールドゴール成功率54%、3ポイント成功率40%で、平均104.5得点は大会トップと、オフェンス面に大きな問題はありませんでした。個人技アタックに頼りすぎる一面はあったものの、スモールラインナップでスペーシングを徹底したことで、個人のドライブ突破を効果的に決めるチーム戦術もありました。タイリース・ハリバートンを中心にしたセカンドユニットが見事なパッシングオフェンスを見せたことで、逆に個人技中心のオフェンスに物足りなさを感じることはありましたが、アメリカが個人技中心であることは今大会に限った話ではありません。

リトアニア戦から3位決定戦のカナダ戦までの4試合すべてで得点が100を超え、相手が強くなってもアメリカのオフェンス力は十分に通用していました。しかし、そのうち3試合で110点以上の失点を喫しており、ディフェンスは過去に例を見ないほど酷いものでした。アメリカの敗因はディフェンスを軽視した戦い方にあったのです。

負けた3試合に共通しているのは3ポイントシュートで攻略されたことで、どこからでも狙ってくるリトアニアのテンポの良いパッシングに追いつけず、複数のスクリーンを用意してアンドレアス・オブストをフリーにするドイツのオフボールで引きはがされ続け、カナダ戦はシェイ・ギルシャス・アレクサンダーへダブルチームを仕掛けてはパスを振られてディロン・ブルックスに決められ続けました。いずれもスモールラインナップを採用しながらスイッチミスやローテーションミスを連発し、所属チームとの戦術の違いに戸惑う選手ばかりでした。

アウトサイドから決められ続けた上に、シュートが外れてもリバウンドを回収できないことも目立ちました。NBAで最優秀ディフェンス賞を取ったジェイレン・ジャクソンJr.をセンターとして起用しましたが、リムプロテクターとしては強力でもリバウンドが弱いタイプのビッグマンであるジャクソンはフォワードとして起用するのがセオリーで、交代で出てくるパオロ・バンケロはリムプロテクト能力を欠いており、この2人を中心にするならば周囲にリバウンド力の高い選手を揃える必要がありました。

スモールラインナップの弱点を利用されたディフェンスは問題だらけ。加えてオースティン・リーブスを狙ったポストアップを連発されてもカバー役を用意せず、5ファウルで退場しない限りは対策を打たない起用法も不可解でした。リーブスがフィジカルに弱いのは分かっていることであり、起用するのであれば何らかの対応策を用意すべきでしたが、ディフェンスを無視してオフェンスのみを考えたような試合運びでは、強豪相手には通用しません。

ゴール下の問題を解決できるウォーカー・ケスラーやディフェンス力があり気の利いた対応をするキャメロン・ジョンソンは、このようなディフェンス問題が発生した時に使いやすいオプションにするためロスターに加えられたはずですが、実際にはディフェンスに困れば困るほど個人で得点を奪う選手を起用し、それが試合終盤で競り負ける要因にもなりました。

NBAのプレーオフのように7戦シリーズであれば、次第にディフェンスでの対応力が増していき、最終的にオフェンス力で打ち勝てるかもしれません。ですが、1試合でも負けたら終わりのトーナメント方式でディフェンス軽視の起用法は致命的でした。

今大会の惨敗により、スーパースター軍団の待望論も出ています。ベストメンバーを組めば圧倒的な戦力で叩き潰せるのは間違いなく、アメリカらしい贅沢な解決方法です。しかし、それはチーム戦術で他国との差がさらに広がることも意味し、再び若手中心で臨んだ時には同じ結果が待っている気もします。わずか8試合で勝者が決まるワールドカップのために、日常的にスーパースターを集めてチーム戦術を磨くのも難しいアメリカらしさ溢れる課題に満ちた今大会でした。