スパーズ

文=神高尚 写真=Getty Images

得点だけでなくアシストでも貢献するデローザン

オフシーズンにカワイ・レナードと衝撃のトレードでスパーズに移籍したデマー・デローザンは、新年第1戦は古巣のラプターズと、その4日後のピストンズ戦では長くともに戦ったドゥエイン・ケーシーと対戦することになりました。特にラプターズ戦ではキャリア初のトリプル・ダブルを記録するなどオールラウンドな活躍。ルーキーシーズンからスコアラーとしてラプターズを引っ張ってきた姿はそのままに、スパーズに来て新たな能力を発揮しています。

ここまで平均22.6得点は昨シーズン並みですが、6.2リバウンドと6.4アシストはキャリアハイの数字で、得点以外の面でチームへの貢献度を高めています。これらはスパーズのチーム事情から必要になったプレーでもあり、スパーズがトレードでデローザンを獲得するにあたって思い描いていた形が機能してきたと考えられます。

このオフにスパーズは長年チームのオフェンスを構築してきたトニー・パーカーが移籍し、マヌ・ジノビリは引退しました。プレーメーカータイプの選手を失ったにもかかわらず、補強したのはマルコ・ベリネリやダンテ・カニンガムといったアウトサイドシュートが得意な選手たち。おそらくこの時点でミドルシュートとドライブが得意なデローザンには得点だけでなく、プレーメーカーとしてアシストも期待されていました。

ポイントガードのデジョンテ・マレーがケガをしたことは想定外だったでしょうが、その代役にシュートの上手いブライアン・フォーブスが納まったことでデローザンのパスからフィニッシュする形はより定着した印象です。

平均6本以上のアシスト数ですが、特定の選手へのアシストではなくチームメートに満遍なくパスを出しているのが特徴で、スパーズのオフェンスはデローザンから始まって全員が得点していきます。平均2桁得点は4人だけですが、チームの得点は昨シーズンの102.7点から111.9点まで伸びており、エースを中心としたバランスアタックが実現されました。

レナードをトレードすると決めた時から描き始めたであろうデローザンを中心としたオフェンスの構築は、彼は得点だけでなくアシスト力を発揮することで計画通りに進んだと言えます。

一方でチームとしてはディフェンスで苦しみ、それがシーズン前半に勝てない要因になりました。もともとディフェンスが課題のデローザンを組み込むのに苦労し、11月までは平均失点が112点を超えていました。

それでも、12月になると平均失点は105まで下がります。重要な役割を果たしたのは2年目のデリック・ホワイト。オフボールでのチェイスの上手さと相手のプレーを読んだスティールで相手エースを抑える役割を担い、ラプターズ戦ではレナードを追い込むなど、自分よりもサイズの大きい選手のマークも担当するようになりました。

ホワイトのディフェンスが良かった反面、デローザンと相性の良いのはフォーブスです。このどちらを起用すべきなのか、チームとしては難しい一面も出てきました。結論は両者を起用する3ガードで、苦しくなったリバウンドをデローザンが抑えることでした。パウ・ガソルのケガもあって12月はチームで最も多いディフェンスリバウンドを取ることになったデローザン。チーム事情から必要になった部分をエース自らが補うことになりました。

計算通り上手くいっていたオフェンスと、苦しみながらも良いチームバランスを構築しつつあるディフェンスで、スパーズは軌道に乗ってきました。

愛着のあるチームから告げられた突然のトレードは大きな波紋を呼びましたが、新天地でのデローザンはチームの中での役割変更によって新たな刺激を得て、よりオールラウンドな能力を発揮するようになっています。

デローザンを中心に攻守がしっかりと噛み合うようになってきたスパーズ。単にエースを交換するのではなく、チーム構成から見直したため時間は掛かりましたが、12月以降は14勝5敗で好調を維持し、混沌のプレーオフ争いから一歩抜け出しそうな雰囲気が出てきました。