2023-24シーズンはレッドシャツ扱い、リハビリに専念
突如の、残酷で衝撃的なニュースだった。8月4日、NCAA1部・ラドフォード大に所属する山﨑一渉が自身のSNSで右膝前十字靭帯断裂、内側側副靭帯損傷、半月板損傷の診断を受けた旨を報告した。
日本のファンにとっても残念な報せだった。山﨑は11日に開幕する「ワールド・ユニバーシティ・バスケットボール・シリーズ2023(WUBS)」に出場する同大の一員として、母国の観衆の前でアメリカでの成長ぶりを披露する予定だったからだ。
ラドフォード大は同大会へ向けての練習を東京都内で行ったが、松葉杖姿の山﨑もそこにあった。彼によれば故障をしたのは先月25日の練習中。リングへアタックしようと踏み込んだ際にヒザが内側に入ってしまったことで起きてしまったという。
ケガをした瞬間もその後も、不思議と痛みはないというが、彼にとって大学2年目となる2023-24シーズンはレッドシャツ(試合出場ができない練習生扱いになる代わりに、大学でのプレー可能年数にはカウントされない)扱いとなり、リハビリに専念することになる。
キャリアで最大の故障を負った山﨑だが、頭を垂れる様子は見せず、前を向いている様子だった。「本当に日本でプレーしたかったなという気持ちもあるんですけど、こうなってしまったことはしょうがないです。(ケガをする)前の姿よりも成長して帰ってきている人は何人も見ているので、自分もそうなれると思います。まだまだ足りないところだらけだったので、そこに取り組む1年にしたいです」
仙台大学付属明成高校での恩師、佐藤久夫ヘッドコーチが6月に他界し、そして今回は自身が大ケガを負うなど、心身ともに苦しさを味わっている。だが、ここで落ち込んでいるだけでは天国から見守る、「恩師以上」と呼ぶ存在の佐藤氏に対して、顔向けができないと顏を上げる。
「久生先生のこともありましたが、ここで心が折れていたら先生に恩返しができないと思うし、前向きに、絶対にあきらめないでやっていこうという気持ちです。もし先生がいたら、同じケガをするなとか、足りないところを補う1年にしろと言ってもらえると思います」
仲の良いライバル、岩下准平の存在が完全復活の励みに
ラドフォード大の指揮官、ダリス・ニコルズもプレーができずケガからのリハビリ期間も山﨑にはチームの一員でいてもらうために務めるとした。また、同HCは山﨑にはコートに立つことのできないこの時間を、復帰した時に周囲を驚かせる選手となるような有意義なモノにしてもらいたいと強調する。「彼にとって今年は成長の年にするべきで、チームのことは心配せず自己中心的になって、個人的にもっとうまく、強くなってもらいたいと思っています」
これまで同様のケガを乗り越えて復活した選手を何人も見てきたと山﨑は口にしたが、その「何人」の中には身近な選手もいる。現在、筑波大に所属し、山﨑とU19ワールドカップで日本代表として共に戦った岩下准平だ。岩下もヒザの前十字靭帯を2度、断裂している。
「岩下准平とはすごく前から仲が良くて、今、彼も僕と同じケガをしているんです。岩下が1度目に前十字を切った時に自分がウインターカップで優勝(2020年)しました。そして岩下が戻ってきた3年生のウインターカップ(2021年)で彼は成長した姿を見せ、チーム(福岡大学附属大濠高校)が優勝したのを見ています。彼は今、同じ箇所の2度目のケガと戦っていますが、そういう姿はすごく励みになっています」
今回のWUBSにラドフォード大が参戦するのは山﨑の存在が前提となっていたことは明白だ。プレーはできなくとも、ベンチから声を出して仲間を盛り上げ、日本のファンには『ハイランダーズ』の愛称を持つこのチームと彼以外の選手たちのことを知ってもらう機会にしたいと山﨑は言う。
山﨑がコーチから聞いたところでは、昨シーズン、ともに1年生としてチームに加入し仲の良いPGケニオン・ジャイルズは、山﨑がケガをした直後には涙を浮かべていたという。他のチームメートたちも山﨑に声をかけつづけ、励まし続けてくれたという。「英語もぜんぜん話せなかった自分を受け入れてくれて、本当に素晴らしいチームメートに恵まれたなと思っています。彼らの素晴らしさや人間性など、バスケット以外のところも知ってもらいたいです」
WUBSはノックアウト形式の大会となっており、昨年の第1回大会の優勝校アテネオ・デ・マニラ(フィリピン)の他に、ラドフォード大、高麗大学校(韓国)、国立政治大学(チャイニーズ・タイペイ)、ペルバナス・インスティテュート(インドネシア)、シドニー大(オーストラリア)、日本からは東海大と白鴎大が出場する。決勝戦は13日(日)に行われる。