シェイ・ギルジャス・アレクサンダー

『攻めの補強』に打って出るのではなく、タレントの成長を待つ

チームにはサイクルがあり、再建期から成長期、成熟期を経て終わりを迎える。サンダーは2015-16シーズンにケビン・デュラントとラッセル・ウェストブルックを擁してカンファレンスファイナルまで勝ち上がる躍進を見せたが、そのオフにデュラントがウォリアーズに移籍。残ったウェストブルックが牽引したチームはプレーオフには出続けたものの、ファーストラウンドを突破できなかった。

ウェストブルックが退団した2019-20シーズンから若手を中心に据えて新たなサイクルを築き始め、1年目にクリス・ポールの導きによりプレーオフへと進出したものの、その後は勝てない時期が続いた。それでも22勝、24勝、昨シーズンは40勝でプレーイン・トーナメント圏内に入り、チーム成績は着実に上向いている。

エースのシェイ・ギルジャス・アレクサンダーが25歳にしてオールNBAファーストチーム入りを果たした今、飛躍の準備は整ったように見える。新シーズンのサンダーが、昨シーズンのグリズリーズやキングスのように、サイクルの終焉を迎えようとしているベテラン中心のチームを追い抜いても何の不思議もない。

そんな状況で迎えた今オフだが、補強は目立たないものとなった。指名権は使い切れないほどあり、有望な若手が多すぎて十分なプレータイムが行き渡らない。サラリーキャップには十分な余裕がある。それでもサム・プレスティGMは、トレードで大物を獲得するでもなく、フリーエージェント市場でも動かなかった。

ジェームズ・ハーデン退団を機に再建に入ったロケッツは、フレッド・バンブリートにディロン・ブルックスといった即戦力を次々と迎え入れ、再建を強力に推し進めているが、サンダーは動かない。一般的な再建チームは、ロケッツのようにどこかのタイミングで『攻めの補強』に出るものだが、サンダーは静かに独自路線を進めている。

サンダーではシェイが絶対的なエースであり、ジョシュ・ギディーにルーゲンツ・ドート、ジェイレン・ウィリアムズにジェイリン・ウィリアムズ、ケガでデビューが遅れたチェット・ホルムグレンと、タレントの名前を挙げればキリがない。大物フリーエージェントを獲得すれば、彼らは活躍の場を失い、その成長は阻害される。今のサンダーにビッグネームは必要なく、シェイを始めとするタレントが順調に成長していけば、この先もビッグネームは必要ない。

ただ、これは今のNBAのトレンドになりつつある。ナゲッツは自前の選手たちをじっくり育て上げてNBA王者となった。グリズリーズもキングスも、似たような方針でチームを成長させ続けている。これからサラリーキャップの縛りがずっと厳しくなる状況で、高額年俸のスター選手を抱えるリスクは加速度的に高くなっており、高額年俸を得ながらトレードを要求するベテランの行き先がいつまでたっても決まらないのは、彼らに見向きもしないサンダーのようなチームがNBA全30チームの中で増えているからだ。

自分たちの下で育った選手を信じて主力に据え、それを支える選手を補強するやり方が、『スーパーチーム』に取って代わるのか。層が厚く、タフに戦い、まだどんな方向にも成長できる。若いタレントが歩調を合わせて成長するサンダーは、優勝争いを演じることはなくても注目に値するチームだ。

ただ、チームのサイクルで言えば、若くて野心的なタレントの成長をただ楽しめばいい成長期から、勝利のプレッシャーに晒される成熟期へとどこかで移行しなければならない。その苦しみを乗り越えられるまでにシェイを始めとするタレントたちが成長できるか。これができれば、ある意味でサンダーはデュラントとウェストブルックの『KD&ラス時代』を超えると言える。サンダーの新シーズンは、そういう意味でも注目したい。