福岡第一

文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

相手のガードを潰し、得意の速い展開に持ち込む

ウインターカップ男子準決勝、福岡第一と桜丘は主導権が両チームを行き来するスリリングな試合となったが、第3クォーターに福岡第一が超アグレッシブなディフェンスで桜丘を封じて31-9と圧倒。そのまま押し切って決勝へと駒を進めた。

立ち上がりは福岡第一の留学生クベマジョセフ・スティーブがインサイドで効率良く得点を奪い9-0のロケットスタートで主導権を握る。それでも第1クォーター残り4分を切って、桜丘のエース富永啓生にスイッチが入る。4本の3ポイントシュートをノーミスで決め、その間には藤田龍之介も2本の3ポイントシュートを沈め、26-26と追い付いて第1クォーターを終える。

勢いに乗る富永は第2クォーターも止まらない。福岡第一はディフェンスマンの古橋正義をマークに付けてタフショットを打たせるが、富永はそれも次々とねじ込んでいく。点差こそ離れなかったが、福岡第一の得意とする速い展開に持ち込ませなかった点で桜丘が優位にあった。富永は前半だけで31得点。神がかり的なパフォーマンスに会場が大いに沸く中で前半を折り返した。

しかし、ハーフタイムに井手口孝コーチが手を打ち、後半に入ると福岡第一が一気に流れを持っていく。オールコートのゾーンプレス、その狙いは2つ。まずは相手のガードを潰して富永にボールを渡さないこと。もう一つは自分たちの得意な速い展開に持ち込むことだった。

この狙いが2つとも当たる。河村勇輝と小川麻斗が強烈なプレッシャーを掛けて相手のガードを沈黙させると、ターンオーバーからファストブレイクに持ち込む。後半開始1分の時点で46-51とビハインドを背負っていたが、そこから7分間で29-4のラン。75-55と20点差まで突き放した。

福岡第一

井手口コーチの秘策、オールコートのゾーンプレス

試合を決めたオールコートのゾーンプレスを井手口コーチはこう語る。「そう上手く行くものじゃないけど試してみて、ボールを運ばれそうだったらさっさと下がって前半みたいなハーフコートのバスケットをしっかりやろうと考えていました。それほど決まらなくてもボールを運ぶのに時間をかけさせるぐらいはできるだろうと。それが思いのほか一発目が効いたので、『さあ行け』となりました」

このオールコートのゾーンプレスは『秘策』として井手口コーチが準備していたもの。「天皇杯では大学生、Bリーグのチームとの対戦がありました。ゆっくりやったら高校生は絶対に負けるので、大学のチームとの対戦のために練習したものです。ウインターカップでもビッグマンのいるチームで展開が遅くなったらやろうと準備は結構していました。今回は出さずに済むかと思っていたのですが、決勝を前に出すことになりました」

オールコートのゾーンプレスが効いたのはもちろん、福岡第一の選手たちに気合いがみなぎっていたのも間違いない。富永に31得点も取られたことに対し、キャプテンの松崎裕樹は「意地を見せろ!」とチームメートに檄を飛ばしたと明かす。こうして桜丘のオフェンスは停滞。富永も自分のタイミングでボールを受けられないことでリズムを乱していく。

もちろん、後半になってオールコートで前から当たるのだから体力的にはキツい。それでもこの作戦を遂行した河村は「キツかったですけど勝つためにはそういう作戦も惜しまないし、肉体的精神的な疲労も関係なくやっていけたので良かったです」と語る。

最終クォーターを迎えた時点で77-57。桜丘に反撃する力は残っていなかったが、福岡第一は最後まで自分たちのバスケットを遂行し、最終スコア103-72で勝利している。前半に31得点を挙げた富永は後半は6得点と封じ込められた。

福岡第一

キャプテン松崎「決勝にやっと帰って来られました」

前半に確率良くシュートを決めて桜丘に勢いを与えていた藤田は、試合後には呆然とした表情。「後半、前から当たられた時に弱気になってしまって、修正できないままズルズルいってしまった。シュートについては確率良く決められたんですけど、前から当たられた時に自分で攻める気を持てませんでした。相手にビビってしまいました」と語る。

快勝を収めた福岡第一は2年ぶりの優勝に王手を掛けた。キャプテンの松崎は「去年はウインターカップ自体が苦しかったですが、決勝にやっと帰って来られました。今年はここまで全国大会の経験がなくて不安でした。それが夏に勝ち上がったチームにもしっかり勝つことができて、自分自身そして一番はチームの自信になっていると思います」と、明日の決勝に向けて確固たる自信がある様子。

一方、井手口コーチは飄々とした語り口で決勝への抱負をこう語る。「ケガ人もなく決勝を迎えられるので、今日の夜をしっかり過ごして。明日の12時に無事に全員をコートに立たせることができれば、監督の仕事はだいたい終わりなので、そこまで気を抜かずにできればと思います」

明日の12時からの決勝は中部大学第一と対戦する。