「試合勘はまだ取り戻せたわけではないですが、一歩ずつ良い状態になっています」
男子日本代表は7月8日、9日にチャイニーズ・タイペイと強化試合を行い、2試合ともに大差をつけて勝利した。ワールドカップ本大会に向けてのチーム作りも最終段階へと突入しており、12名のロスター生き残りに向けて、一部の中心メンバー以外は限られた機会でアピールする必要がある。
千葉ジェッツの金近廉は初戦では精彩を欠いたが、第2戦には持ち味である驚異的な跳躍力から豪快なブロックショットを2本繰り出し、7得点4リバウンド2️スティールとオールラウンダーとしての存在感を示した。
20歳の金近は昨年の全日本大学バスケットボール選手権で東海大のエースを務めると、オフェンスでは切れ味鋭いドライブと3ポイントシュート、守ってはセンターとして相手の留学生ビッグマンを抑える獅子奮迅の活躍でチームを日本一に導いた。そして今年の4月に東海大を退学し、千葉Jに加入する。金近のBリーグ入り自体は、彼の非凡な才能を考えれば妥当な選択だが、Bリーグの登録期限が過ぎた後で、練習生としてこの時期に加入することは驚きだった。
確かにBリーグ随一の強豪である千葉Jで練習を積めることは大きなプラスとなる。だが、大学に残っていれば春の関東大学トーナメント、日韓の学生対抗戦となる李相佰盃などで試合をこなせる。練習と試合は全くの別物であり、彼の決断を尊重する中でも、春の大学シーズンを戦った後で千葉Jに加入してはという見方もあった。
特にワールドカップを考えると、12名の最終メンバーで当落線上の位置にいる中、約半年に渡って実戦経験がないブランクは少なくないハンデとなる。だからこそ、今回の連戦で金近がどんなプレーを見せてくれるのか注目だったが、本人は「試合勘はまだ完全に取り戻せたわけではないですが、それでも自分の中では一歩ずつ良い状態になっています」と語っている。
「ディフェンスでは高さの部分で自分が補えるように」
金近の言葉通り、第2戦は初日に比べてもパフォーマンスの質が上がっていた。そのきっかけとなったのはディフェンスだったと振り返る。「合宿からあまり良いリズムでオフェンスができていない感覚はありました。昨日もうまく試合に入れず、ズルズルと終わってしまいました。今日はオフェンスをそこまで気にせず、ディフェンスから入ろうという意識で臨み、最初に良い形で2回ブロックできて、そこから乗った感じがありました」
「トム(ホーバスヘッドコーチ)さんがいろいろなメンバーの組み合わせを試す中、ディフェンスで自分は高さの部分もあると思います。今回、(渡邉)飛勇が出られなくなり、ビッグマンが少ないこともあって、自分が4番で出てうまくディフェンスリバウンドだったり、インサイドで戦えました」
そして、12名のロスターに生き残るためにアピールすべきことを次のように語る。「3ポイントシュートはまだまだ足りないです。以前のように打てている訳ではないので、そこは調整していかないといけません。それでも、打つなとは言われていないので、自信を持って今後も打っていきます。ディフェンスでは高さの部分で自分が補えるように、今日のようなディフェンスを継続できたら貢献できると思います」
本人も強調するディフェンスの高さで言うと、196cmの金近はビッグマンとしてはサイズ不足だが、それを補える跳躍力がある。また、東海大時代には留学生ストッパーとして活躍しており、ローポストでの守備経験も豊富だ。もちろん、留学生とワールドカップで激突する世界のビッグマンではプレー強度に大きな違いがある。だが、金近も千葉Jで練習を積んだことで、フィジカルは着実に進化している。「コンタクトの部分に関してはネガティブな感じではなく、自分から当たっていく気持ちです。筋力も多少はついていますし、頑張って耐えられるようになってきています」
八村塁の欠場は攻守の両方でマイナスだが、何よりもサイズ不足の日本においてはゴール下のディフェンス、特にリバウンドでの影響が大きい。それだけにインサイド陣がボックスアウトで相手ビッグマンを抑えた後にリバウンドをしっかり取り切れる、もしくは4番もこなせるウイングの出現が求められる。そして、これこそ金近が自身のアピールすべき部分と考えている。
「ビッグマンがファウルトラブルになった時、自分が4番としても出ることができればチームに必要な存在になれます。その上で、オフェンスではコンスタントに3ポイントシュートを決めて、相手の脅威になっていきたいです」
まだまだ荒削りな部分は否めないが、そのマイナス面を補って余りあるポシティブな要素を金近はしっかり示した。これから韓国代表、ニュージーランド代表など相手のレベルが上がる中で、引き続きこのスケールの大きいプレーを見せることができれば、12名の代表入りの可能性は大きく高まってくる。