「このチームで勝ちたいと戦ってきた選手たちの思いが出たのは横浜らしい勝ち方」
4月19日の水曜ナイトゲーム、横浜ビー・コルセアーズは新潟アルビレックスBBに88-80で勝利。そして、サンロッカーズ渋谷が信州ブレイブウォリアーズに敗れたことで、チーム初のチャンピオンシップ出場を決めた。
この試合、横浜BCは堅守からのトランジションに持ち込み12-4と先行する。しかし、ロスコ・アレンの非凡な個人技でやり返され、同点で第1クォーター終了。そして、第2クォーターに入っても新潟の外国籍選手を止めることができず、37-41とわずかだかリードされて前半を終える。
後半に入っても横浜BCは、再びアレンを波に乗せてしまい劣勢が続く。しかし、第4クォーターに入ると、守備のギアを上げることで得点源のアレンに簡単にボールを持たせず、タフショットを強いる。これで本日27得点を挙げたアレンを、第4クォーターに関してはフィールドゴール5本すべて失敗の2得点と抑え込む。
そしてオフェンスでは、森川正明が第4クォーターだけで3ポイントシュートを6本中4本成功の16得点と大暴れ。徐々に自分たちのペースに持ち込むと、2点を追う残り2分半から森川の連続3ポイントシュート成功で逆転し、要所でディフェンスを踏ん張り逆転勝利を挙げた。
横浜BCの青木勇人ヘッドコーチは、「新潟さんがすごくタフに戦ってきて、我慢の展開が続く試合でした。その中でもディフェンスのギアを上げることができました」と勝因を語る
さらに指揮官は、次のようにベテランの活躍に言及する。「最後に今までずっとチームを支えてきた森井(健太)選手のディフェンス、森川選手の得点で違いを生み出して勝てたのは、横浜を象徴するシーンだったと思います。今シーズン、若い選手たちが脚光を浴びがちですが、ずっと横浜を支えてきた選手たち、このチームで勝ちたいと戦ってきた選手たちの思いが出たのは横浜らしい勝ち方でした」
そして初のチャンピオンシップ出場について、青木ヘッドコーチは選手たちの頑張りを称える中で、チームスタッフの献身的な働きによって環境面の不利を乗り越えられたと続ける。
「皆さんに知ってもらいたいのは、自分たちの練習施設を持っていない中でも誰一人、環境を言い訳にしないことです。そして練習の度に毎回、荷物を移動するのは大変ですが、スタッフ全員がそれを全く苦にせずこのチームのために身を粉にして選手たちを支えてくれています。この思いがコート上に現れた試合が多かったと思います」
森川「選手一人ひとりに寄り添ってくださって、プレーしやすい環境を作ってくれます」
横浜BCはBリーグ初年度から3年連続で降格プレーオフを経験と、なんとかB1に踏みとどまってきた歴史がある。昨シーズンまで勝ち越しはおろか、勝率4割以上の成績を挙げたことはなかった。「おそらく数年前の横浜を見ている人は、(今回のチャンピオンシップ出場を)想像できていないと思います」と青木ヘッドコーチも語るように、リーグ下位が指定席だった。
だが、そんな苦境が続く中でも熱心にチームを支えてきた人たちがいる。これこそが横浜BCの強みであると指揮官は強調する。「今の風景が来ることを信じて応援を続けてきてくれた、横浜を支えてあきらめなかった皆さんの気持ちが私たちをこの場に連れてきてくれました。ファンの皆さんと一緒に作ってきた横浜の歴史に関われたのは幸せです」
このように青木ヘッドコーチは、今回の大きなステップアップを選手、スタッフ、ファンとチームに関わるあらゆる人たちのおかげと感謝する。だが、指揮官の巧みなチームマネジメントも今シーズンの躍進にも欠かせない。
河村勇輝を筆頭に須藤昂矢、キング開、赤穂雷太と今シーズンの横浜BCは若手の活躍が目立っている。だが、若手が伸び伸びとプレーできているのは森井、森川とベテランがセカンドユニットとして支えてくれていること、外国籍選手が日本人選手のために、スタッツに残らない献身的なハードワークで得点チャンスをお膳立てしてくれることも大きい。この決して簡単ではない強固な一体感を作り出せているのは、指揮官の人心掌握術が優れているからこそだ。
横浜BCに加入以降、不動の先発だったのがシーズン途中からベンチスタートに回った森川は次のようにヘッドコーチを語る。「選手一人ひとりに寄り添ってくださって、すごくチームとしてプレーしやすい環境を作ってくれます。密にコミュニケーションを取り、選手それぞれの力を最大限に生かしてくれます。みんなのモチベーションを上げて雰囲気を良くしてくれます」
「続けることが大事。昔から良いことがあるまであきらめなければ良いことがある」
今回の横浜BCのチャンピオンシップ出場は、長きに渡る冬の時代を耐えてつかんだ晴れ舞台となる。だが、それはチームだけでなく、青木ヘッドコーチの道のりにも共通している。神奈川出身の地元選手として横浜BCには創設年に加入し、bjリーグの優勝も経験。引退後はアシスタントコーチを経て、2015年にヘッドコーチへと就任と順風満帆なキャリアを歩んでいた。しかし、就任2年目となるBリーグ初年度、低迷するチームでシーズン途中に退任する挫折を味わう。そこから古巣である新潟でのコーチを経て、昨シーズンに2度目のヘッドコーチ就任を果たすと、チーム史に残る偉業を成し遂げた。
「本当にまずは続けることが大事。昔から良いことがあるまであきらめなければ良いことがあると思っているので、ある程度は楽観的なところはあります」
このように山あり谷ありのコーチ人生を語る青木ヘッドコーチは、次のように充実感を語る。「(前回の退任は)挫けるような出来事でしたけど、それでも自分を必要としてくれる場所がある。そこで最善を尽くして日々、課題としっかり向き合って成長していければこういうチャンスがあると思っていました。(再びヘッドコーチになれるまで)続けてきたことはファインプレーだと思っています。前の失敗から学んで、『次はこうしよう』と試行錯誤を積み重ねてきました。バスケットボールと真摯に向き合ってきた結果、今、この場にいられる。率直にすごくうれしいです」
また、2度目のヘッドコーチ就任に対し、当初はリベンジの思いもあったが今は違うと続ける。「最初は絶対に見返してやるという気持ちもありました。ただ、今はこれまでのすべてがあったから今があると思っています。過去の経験が無駄か、どうかは自分次第で変えられる。いろいろな失敗に挫けることの方が多いですが、それでも進み続けたことで、失敗を糧にできている。今はリベンジの気持ちは消えていて、とにかくできる限りのことをやっていれば結果に返ってくると思っています」
チャンピオンシップ出場は素晴らしい功績だが、指揮官は「シーズン途中から目標をチャンピオンシップに出ることではなく、勝ち抜くことに上方修正しました」と言い、しっかりと次を見据えている。
そして、クォーターファイナルが川崎ブレイブサンダースとの『神奈川ダービー』となることを「願ってもない舞台です」と歓迎する。同じ神奈川をホームタウンとするB1のチームだが、初年度からリーグ上位の川崎と横浜BCは、これまで対照的な道のりを歩んできた。その両者の立場を逆転させる舞台として、チャンピオンシップは申し分ない。