「何かと思って振り返ったら、自分の娘だったよ(笑)」
ブルズはプレーイン・トーナメント初戦でラプターズを相手に苦戦を強いられた。相手のチームディフェンスを崩せず、ミドルジャンパーでしか得点を奪えない。ブルズの得意な形ではあるものの、ゴール下と3ポイントラインで良いシュートチャンスを作れないのでは、試合を優位に展開することはできない。前半はわずかな差ではあったが常にビハインドを背負い、第3クォーターで突き放されて最大19点差を付けられた。
敵地での一発勝負で、我慢の展開が続くのは精神的に厳しい。それでもブルズの選手たちはストレスを抱えながらも集中を切らさず、第4クォーターに反撃に打って出た。それまで19本中3本しか決まらなかった3ポイントシュートに当たりが出て追い付くと、最後まで続いた接戦をデマー・デローザンとザック・ラビーンの得点で制している。
フィールドゴール22本中12本成功の39得点でオフェンスを牽引したラビーンは、第4クォーターの逆転劇について「ただアグレッシブにプレーするよう心掛けたんだ」と話す。「ディフェンスは悪くなかったんだけどオフェンスでボールが動かず、スローな展開が続いていたから、思い切り良く攻めようと思った。その結果、チーム全体にリズムが出てきたんだ」
「相手にたくさんミスが出たおかげでもある。相手がシュートを外すのを期待する立場にはなりたくないけど、そうして巡ってきたチャンスを生かしたことには満足している」
ラビーンがそう言うのは、ラプターズのフリースローだ。ラプターズは試合を通して36本のフリースローを得ながら、半分の18本しか決められなかった。ここで相手が確実にフリースローを決めていたら、ブルズがリズムを立て直す前に、決定的な点差が付いていた可能性が高い。
ここで話題となったのが、ラプターズの選手がフリースローを放つ際に、ゴール裏の席から金切り声を挙げて集中を妨げていたディアー・デローザンの存在だ。ラプターズの選手の中には、この少女がかつてのフランチャイズプレーヤーの娘だと知っていた者もいたかもしれない。そうでなければ、シーズンを通してフリースロー成功率89.8%のフレッド・バンブリート、83.8%のOG・アヌノビーが次々と外した理由が分からない。
彼女の父、デマー・デローザンはラビーンに次ぐ23得点を挙げてブルズの勝利に貢献したが、会見では娘のことばかり質問されて、主役の座を奪われた。「試合中に叫び声が聞こえてきたから何かと思って振り返ったら、自分の娘だったよ。彼女はああいう子なんだ」とデローザンは苦笑を浮かべながらも、愛娘の『活躍』にうれしそうだった。
デローザンが2018年までラプターズに所属していた頃、まだ幼かったディアーはほぼ全試合をアリーナで観戦していた。だが最近は、娘が試合に行きたいとせがんでも、学校を休ませたくないため、デマーは父としてそれを許可していなかったそうだ。それが今回、プレーイン・トーナメントで、懐かしいトロントでの試合ということもあって観戦を認めた。それがブルズにとって『勝利を呼ぶ声』になった。
ブルズは中1日を挟んでマイアミに移動し、ホークスに敗れてプレーイン・トーナメント2戦目に臨むヒートに挑戦する。しかし、そこにディアーは来ない。「学校があるからね」とデローザンは笑顔で語った。