『ガードばかり』の極端な5人でも攻守に機能するバスケ
5位から12位までが3ゲーム差で、日々順位が入れ替わる西カンファレンスですが、ここにきてサンダーが9位に上がってきました。スターター5人の平均年齢が21.6歳と大学生のようなチームながら、異端な戦術を使いこなし、プレーオフ出場に近付いています。
オールスターに選ばれたシェイ・ギルシャス・アレクサンダーを中心に優秀なガードが揃っていますが、むしろ『ガードばかり』が揃い、時にはコートにいる5人全員がガードということもあります。ハンドラータイプの選手を並べると機能しないもので、個人で点を取れる選手を並べたがって失敗するチームは珍しくありません。しかし、サンダーは日常的にガードだらけにしておきながら攻守に問題を起こしません。
その秘密は個人でボールを持ちすぎないことで、タッチ数当たりのボールを保持する時間はリーグで7番目に短く、またカットプレーからのフィールドゴールはリーグで6番目に多いなど、誰もがハンドラーでありながらオフボールの仕事もこなします。選手の個性を生かしながら、特定の役割に当てはめることなく、全員が主役であり脇役でもあるバスケットを展開しています。
言葉で言うのは簡単ですが、この形でバランスを取るのは難しく、それを若い選手たちで実現していることは、38歳の若きマーク・ダグノートが一貫した戦術でチームを統率してきた成果でもあります。
再建期になってからドラフト指名権をかき集めたサンダーですが、ドラフト上位指名で主力になっているのは21年6位のジョシュ・ギディーくらいで、誰もが注目していた才能溢れる選手というよりは、独自の視点でスカウティングを行い、戦術適性の高い選手を集めてきました。
今やチームで最も古株になった4年目のルーゲンツ・ドートは、ディフェンス力が売りのガードですが、オフェンスではペイント内を動き回りスモールラインナップにおけるセンター役をこなし、ルーキーのジェイレン・ウィリアムズはコーナー担当として次々とカットプレーをするウイングをしていたかと思えば、ポイントガードとしてゲームをコントロールもします。どんな役割でも受け入れ、実行していく選手がサンダーでは重用されているのです。
また、ディフェンスでもオールラウンドに守れることと、カバー&ローテを実行できる選手が集められており、スイッチを多用して個々のマッチアップでプレッシャーをかけながら、インサイドへの収縮も早く、サイズ不足を感じさせないチームディフェンスを構築してきました。リーグ3位のスティール数はサンダーらしい特徴ですが、加えて今シーズンはチャージドローが多く、リーグ最多の平均1.35回を記録しています。その中心にいるのがジェイリン・ウィリアムズで、ルーキーながら個人としてもリーグトップになっています。
1月以降のサンダーは19勝14敗と勝ち越していますが、そこにはディフェンスが安定してきたことと、何よりも3ポイントシュートの改善によるオフェンス力アップがありました。昨シーズンはリーグ最低の成功率に終わり、今シーズン前半も振るわなかった3ポイントシュートでしたが、確率良く決まるようになったことでドライブの脅威も増しました。チーム全体の改善もさることながら、新加入のアイザイア・ジョーが喉から手が出るほど欲しかったシューターとして定着したのが大きく、40%を超える成功率で弱点を補ってくれています。
サンダーは、これまでもシューターは何人か試してきましたが、ポジションに関係なくプレーする戦術にフィットする人材が見つかりませんでした。ジョーはディフェンスのカバーリングも良く、スティールやチャージドローでの貢献もあってチーム事情にフィットしています。ジョーにとってもセブンティシクサーズ時代はジョエル・エンビードがリムプロテクターとして存在感を発揮していたため、カバーリング能力はあまり必要とされず、サンダーの戦術の方が自身の能力に適していました。
タンクして手に入れたドラフト2位のチェット・ホルムグレンが開幕前のケガでシーズン全休となり、目立った補強のなかったサンダーでしたが、今シーズンも次々と新たな若手が台頭し、チームの弱点を埋めたことで、着実にステップアップしています。下位に沈んでいた中でも集中力を欠くことなく自分たちの戦い方を成熟さ、シーズン終盤になって調子を上げて、ついにはプレーオフすらも視界にいれる順位へと上がってきました。若手しかいないものの、チームの完成度はライバルたちの上を行くだけに、このまま突き進みそうです。