水野宏太

「相手チームに負けたというより、自分たちに負けた要素が強かった」

「現状に満足はしていないです」

B1レギュラーシーズン36試合を終えた群馬クレインサンダーズの水野宏太ヘッドコーチに、ここまでの評価を聞いた時に最初に返ってきた言葉だった。

第22節を終え、群馬は21勝15敗で東地区3位。同地区2位のアルバルク東京とは8ゲーム差だが、ワイルドカード下位の名古屋ダイヤモンドドルフィンズとは5ゲーム差と、初のチャンピオンシップ出場の可能性は十分に残されている。当然そこは見据えており「レギュラーシーズンを終えて、その先に進んでいくことを考えた時、もっと勝っていかないといけない状況なので満足はできていないです」と評価している。

シーズン序盤に勝ち星を伸ばしたものの、12月に二度の3連敗を喫する苦しい時期もあったが、年明け以降は勝ち星が先行する戦いぶりを見せている。水野ヘッドコーチはこう振り返る。「このチームができる可能性を考えた上で、内容や結果を含めてもっとできたことがあると思います。勝てるチャンスがあったけど落としてしまった試合もありました。その試合も相手チームに負けたというより、自分たちに負けた要素が強かったです」

「我慢すべきところで我慢しきれなかったり、コントロールできないことにフォーカスしてしまい、自分たちらしいプレーができないこともありました」と、水野ヘッドコーチは敗戦後のインタビューでも同じ内容の言葉を発することもある。

実際に群馬らしさが見られない試合があったことも事実。水野ヘッドコーチはその例として、15点リードで最終クォーターを迎えながらも残り18秒で逆転されてしまった天皇杯クォーターファイナルの横浜ビー・コルセアーズ戦や、終始リードしながらも残り7秒で追いつかれオーバータイムの末に敗戦となった琉球ゴールデンキングス戦を挙げた。いずれの試合も「試合巧者になりきれていない」と表現するように勝てる試合を落とした印象だ。

しかし、その経験をしたからこそ今後チームが前進していけると考えている。また、「その課題をどう超えていくかはこれから試されることですが、何にアプローチしなければいけないかが明確に見えたというのは良かったです」と言うように、指揮を執り出して1シーズン目のチームにおいては、見えた課題を一つひとつクリアしていくことが重要である。

そして具体的な展望をこのように語る。「その時その時でやるべきことを誰か1人が理解してやるのではなく、コートに立っている5人とベンチにいる全員が理解して、同じことを見据えられているかが大事になってくると思います。共通認識を持つためにコミュニケーションをしっかり取り、遂行するのが大事ですが、やりきれていないのが今の自分たちです。それを試合のある一瞬やゲーム全体を通して継続してできるようになっていくことが自分たちには必要です」

シーズン前から勝率の目標を明言せずに「強豪チームの文化を根付かせる」ことを重要視してきた。その歩みの過程もまだ半ばであり、チームの発展はチャレンジングなことである。「群馬がB1に昇格して2年目、オープンハウスグループがオーナーになってからは3年目。まだ歴史の浅いチームで、自分たちのやり方が定着していない状況で簡単に結果を出せるような甘いリーグではないと思っていますし、一時的な結果を求めているというよりは、どれだけ根付かせるかということが重要と考えています。歩みのスピードは現段階では評価できませんが、着実に前に進んでいる実感はあります」

群馬クレインサンダーズ

「エネルギーを感じてもらえる存在でありたい」

群馬にとってこの終盤に向けての大きなトピックといえば、新B1基準をクリアする新アリーナ『OPEN HOUSE ARENA OTA(以下、オプアリ)』が竣工することである。そして、4月15日の宇都宮ブレックス戦がこけら落としとなる。

オプアリの開業がチームの後押しになると水野ヘッドコーチも話す。「オプアリが街の象徴となり、誇りと思ってもらえるものになって欲しいという想いです。現在のホームである太田市運動公園体育館で試合をしていても、ファンの方の熱をとても感じます。昨シーズンから所属しているスタッフや選手に聞いても、どんどん熱が上がってきていると言っています」

バスケットボールの興行である以上、勝敗は非常に重要な要素であることは間違いないが、勝ち負け以外にも重要なことがあることを水野ヘッドコーチは理解している。「『群馬クレインサンダーズといえば群馬の誇りだよね』、『群馬クレインサンダーズといったら聖地はオプアリだよね』と言ってもらえるようになりたいです。そのために目の前の試合に勝つことやプレーオフに行くこと、優勝することも重要なことです。しかし、誰かの生きる活力になることや誇りに思ってもらうことは、勝ち負けだけで成されるのではないと思っています。取り組む姿勢だったり、どれだけ覚悟を持ってやっているのかだったり、そのような気持ちや振る舞い、生き様などいろいろな要素があった上で成し得ることだと思います。皆さんの記憶に残るような存在でありたいですし、エネルギーを感じてもらえる存在でありたいです」

さらに、チームは何かを与える一方的な存在ではなく、ファンと一緒に戦うチームであると力強く語る。「ファンの皆さんには、このチームを一緒に作っていると思ってほしいです。競技をするのはチームですが、このクラブ自体が成長していくためには選手やスタッフ、スポンサー、自治体とともに、それを支えてくださり一緒に戦ってくれるファンの皆さんが重要です。皆さんがいなかったらチームの存在意義もないですし『群馬クレインサンダーズが広く認知されるようになったのは、ファンの私たちが後押ししたから」と思ってもらいたいです。勝ち負けはもちろんのこと、チームの一つひとつの取り組みにも一喜一憂してもらえると思います」

「元々想っていた、自分がクラブと一緒にやりたいことや叶えたいこと以外にも、群馬に来てから仕事を通じて多くの方からやりがいをいただけていると感じています。経済的な発展だけでなく、ファンの皆さんの活力が溢れることも地方創生に繋がっていくと信じています」

チームとファンが双方向にエネルギーを感じ合える関係を築くためにもオプアリは重要な役割を担う。そして、新B1基準をクリアするためだけではなく、バスケの街づくりのシンボルとして、多くの人の活力になるためにオプアリは存在する。オプアリのオープンで強豪チームとしての文化作りが加速していくのは間違いない。