ラウリ・マルカネン

ジャズへの移籍を機に鮮やかな復活、高いシュート力で24.9得点

ジャズはシーズン開幕前に再建を選んだことで、本拠地ソルトレイクシティで開催されるNBAオールスターには誰も出場しないかと思われましたが、ラウリ・マルカネンがフィールドゴール成功率51.3%、3ポイントシュート成功率41.3%、フリースロー成功率87.7%と『50-40-90』の可能性を感じさせる高確率な得点力で24.9得点、8.6リバウンドを記録し、見事にオールスターに選出され、さらにケガ人の代役とはいえスターターの座をつかみ取りました。開幕前の状況を考えれば『予想外の成功』ですが、マルカネンという選手個人を考えると『やっと成功を収めた』ようにも感じます。

2017年のNBAドラフトで、マルカネンはブルズ再建の要として1巡目7位で指名されました。213cmの選手とは思えないほど、つま先から頭の先まで身体全体が連動する美しいまでのボディムーブを見せていたルーキーのマルカネンは、スクリーンを多用してシュートチャンスを生み出す当時の戦術にフィットする選手でした。シュート能力が高いビッグマンは他にもいますが、スクリーナーとしてはもちろんスクリーンを使う側としても軽やかに動ける7フッターは、マルカネンにしかない特徴です。

現在は日本代表のシューター富永啓生がプレーするネブラスカ大学のヘッドコーチをしているフレッド・ホイバーグが率いていた当時のブルズは、オフボールでチャンスを作り、シューターを活用する戦術を用いて、新たなチームを作り始めたところでした。マルカネンはホイバーグ戦術の申し子のような選手であり、ブルズがこの路線を継続していれば、オールスター選出はもっと早かったのではないか、とすら感じます。

しかし、マルカネンが2年目のシーズン途中にブルズはヘッドコーチを交代させ、方向性が大きく変わりました。個人突破を中心としたオンボールプレーからの得点を志向するようになったことで、マルカネンの特徴は生きなくなり、プレータイムを減らすことに。こうしてチームの構想から外れ、5年目のシーズンはキャバリアーズでプレーすることになりました。

キャブスでのマルカネンは従来とは異なり、ディフェンスでの働きを強く求められるようになりました。サイズを生かしたビッグマンとのマッチアップはもちろん、長い手を利用したマンマークでガードとのマッチアップもできるマルカネンは、ポジションを問わず相手エースとマッチアップすることが増えました。チームとしてカバーに優れた選手が多かったからこそ可能だった役割ですが、ディフェンスではエースキラー、オフェンスでは3ポイントシューターとしての役割が与えられたことは、チームの主役ではなくロールプレーヤーの道を歩み始めたことを意味し、オールスター選出は非現実的な夢になったように見えました。

しかし、オフにドノバン・ミッチェルとのトレードでジャズに移籍すると、一気にオールスターまで昇り詰めます。開幕前に行われたユーロバスケットではフィンランド代表のエースとして、見事なオフボールムーブから得点を量産すると、その流れを継続するようにジャズでも正確なアウトサイドシュートとカットプレーを組み合わせ、少ないタッチ数で効率的に得点を奪い、見事にチームの主役に返り咲きました。実際、1試合の中でマルカネンがボールを持っている時間は1.8分しかなく、これは9.6分でトップのルカ・ドンチッチの20%に満たない短さです。ドリブルをほとんど使わずに得点を重ねる特殊なタイプのエースになっています。

ジャズはルディ・ゴベアを放出してからインサイドには機動力のある選手か3ポイントシュートの上手い選手を集めており、マルカネンがオフボールで動くスペースを確保してきました。ブルズでのルーキー時代のように、自分を生かすために考えられたかのようなチーム戦術を用意されたことで、マルカネンは再び輝き始めたのです。

今回のオールスターではミッチェル、ジェイソン・テイタム、バム・アデバヨ、ディアロン・フォックスと5人が選ばれるなど、豊作だった2017年ドラフト組の中で、オールルーキーファーストチームに選ばれたマルカネンですが、チームのプレースタイルに合わなくなると輝きを失いました。それでもジャズではチームと個人のスタイルが噛み合い、美しいまでのオフボールムーブを武器にキャリア6年目で感慨深いオールスター初選出となりました。