ボーンズ・ハイランド

「NBAの選手をお手本にしてこなかった」と言う独創性溢れるスタイル

ナゲッツは大混戦の西カンファレンスで独走態勢に入っている。2年連続のMVPである万能センターのニコラ・ヨキッチを軸とするバスケの完成度は高く、メインの選手が長く一緒にプレーしているため連携も取れており、何が飛び出すか分からないクリエイティビティがありながら着実に勝ちを重ねる安定感を発揮している。

ただ、この弊害は若い選手が順応に苦しむことだ。ヨキッチの控えセンターを務めたボル・ボルは泣かず飛ばずのままチームを離れたが、マジックに移籍した途端に見違えるようなパフォーマンスを見せている。今回のトレードデッドラインでこれに続いたのがボーンズ・ハイランドだ。

ハイランドは2年目のポイントガードで、ルーキーだった昨シーズンからチャンスを与えられてはいたが、今シーズンはモンテ・モリスが抜けて活躍の場が広がるはずが、逆に出番を失うことに。彼はこれを自分の実力不足ではなく、チームと個人のプレースタイルの食い違いによるものだと考えている。

「僕のプレーメークが必要とされていなかった」。2巡目指名権2つとのトレードでクリッパーズに加わったハイランドは言う。1月下旬の試合で彼は交代させられたことに不満を爆発させ、試合終了を待たずにロッカールームへと引き上げている。この行為がトレードの決め手になったのは間違いないが、彼のプレースタイルが受け入れられなかったことが問題の根幹だろう。

ハイランドは奔放なプレーメーカーで、そのままパスを出せばイージーレイアップをアシストできる場面で一つフェイクを入れたり、ステップを変えたりする。同じ2点でも『芸術点』を付け足すことに彼は意義を感じているのだ。狙い通りのプレーが決まった瞬間、ディフェンスに戻る前に最前列のファンとハイタッチをしたこともある。ナゲッツで芸術を楽しむ特権を与えられているのはヨキッチだけで、ハイランドがそういった遊び心を見せるたびに指揮官マイケル・マローンは激怒するのだが、彼は自分の本質を曲げようとはしなかった。

効率ばかりが重視されて魅せる選手が絶滅寸前となっている今のNBAで、どうやってハイランドのような選手が生まれたのか。それは彼がストリートボール界のレジェンド、『ホットソース』ことフィリップ・チャンピオンにあこがれ、自分のスタイルを作り上げてきたからだ。

「僕はNBAの選手をお手本にしてこなかった。子供の頃から『ホットソース』に夢中で、学校から帰ってくると食事をしながら彼の動画をチェックして、それから彼のムーブを練習したんだ」

デビューからわずか1年半で移籍するのは利口な立ち回りとは言えないだろうが、それが彼のスタイルだ。クリッパーズではテレンス・マンに続くポイントガードの2番手を務めることになる。カワイ・レナードとポール・ジョージを擁するクリッパーズでは、ヨキッチを擁するナゲッツと同じように、若いハイランドが自分の思うままにプレーすることは許されないだろうが、「ジョーカー(ヨキッチ)はパスだけど、PG(ジョージ)とカワイは得点に重きを置く感じだから大丈夫だよ」とハイランドは言う。

彼にとっては初めての移籍となるが、チームへの順応を助けてくれるのはマーカス・モリスだ。マーカスと弟のマーキーフをAAUで指導したコーチは、ハイランドの恩師でもある。それでモリスとは「僕が11歳か12歳の頃からの知り合いで、兄貴みたいな存在だ。ドラフト前にクリッパーズの練習に参加させてもらった時も、彼に街を案内してもらった。食事にも行ったし、いろんな面で助けてくれる。デンバーでも試合の前には必ず話していたしね」という仲だ。

「僕はフーパーだから、どこに行ってもすぐに馴染むことができるよ。そして勝利に貢献するんだ」。入団会見でのハイランドはずっと楽しそうだった。自分のスタイルを貫く彼は、クリッパーズで成功できると100%信じている。