群馬クレインサンダーズは2023年4月から新アリーナ『OPEN HOUSE ARENA OTA(以下、オプアリ)」』をオープンする。新B1基準を満たすアリーナとしては本州初となるだけに注目が集まるが、クラブは新B1参入を目指すためだけのアリーナとは考えておらず、バスケ文化を太田市に根付かせるための象徴としてオプアリをとらえている。完成が迫ったオプアリを中心とした、群馬の今後の構想について吉田真太郎GMに話を聞いた。
「群馬クレインサンダーズファンが誇れるアリーナを作りたい」
──新アリーナのコンセプトを教えてください。
「SMALL ARENA BIG VISION」と掲げていますが、ここに至るまで何百回と考えを巡らせてきました。もともとアリーナというのは、ビジネスの理屈からすると人が集まる大都市で作るのが一般的な考えだと思います。今回、私たちは群馬県太田市でアリーナを作ることになり、本当に1万人規模が必要なのかを考えました。オープンハウスグループがクラブを完全子会社化した2019年には収容人数6,000人くらいがベストと考えていましたが、クラブ運営をしていく中でアリーナをシンボルにしていきたいという想いが生まれてきました。どうすればシンボルになれるのだろうかと考えた時に、このアリーナに来るのが誇りであり、価値であるアリーナにするべきだと結論づけました。Bリーグの定める新B1リーグの基準が5,000人ということもあり、5,000人~5,500人というのを軸にアリーナ構想を進めてきました。
──こだわった部分はありますか?
ソフトとしてどのように価値を上げていくのかはものすごく考えました。NBAウォリアーズの本拠地『Chase Center』は格好良くて誰もが憧れるアリーナですが、総工費が約2000億円と規模が全く異なり、日本のマーケットで同程度のハードのアリーナを目指すのは難しいです。しかし、お客様に一つのショーとしてエンターテインメントを届けることで、本場の雰囲気を作ることは可能ではないかと考えました。そこから演出にフォーカスした時に、コート上部のビジョン(大型画面)をオプアリの価値にしようと考え、多くの関係者と話し合い世界中のビジョンを吟味した結果、日本初の3層式で14面が独立して動くものに決定しました。さらに観戦環境をより良いものにするべく、会場が一体になるように座席も1cm単位で考え、座席の傾斜もこだわっています。
──アリーナが完成することでハードの違いは感じやすいと思いますが、エンターテインメントや演出の大きな進化は感じられません。元来のBリーグのエンターテインメントを超えていくには何が必要だと考えていますか?
来場されたお客様がワクワクするかというのが一番のポイントだと考えています。「ディズニーランドにいきたい」と多くの人が思うように「オプアリに行きたい!」、「オプアリでバスケを観たい!」、というのを作り出したいと思っています。NBAは音響もすごく良いです。オプアリは音響にこだわり最高峰レベルの『L-ACOUSTICS』というフランスの音響を導入しました。照明もコートを照らし出し、観客席は暗くなり映画館のようなワクワクを演出できるようになっています。2016年のBリーグ開幕戦のアルバルク東京vs琉球ゴールデンキングスのようなコートが浮かび上がるイメージは少し意識しました。現在は試合開始の2時間前に開場していますが、さらに1〜2時間早く開場して、音楽や光、食事を楽しみながら集えるような場にしたいと考えています。ディズニーは価値を下げないように、常にアップデートし、変化し、投資し続けています。私たちもエンターテインメントに関してはチャレンジし続けるという覚悟です。年々変化し期待感を上げていき「オプアリに行くといつも楽しいね」と、多くのお客様に言ってもらえるようにしていきたいです。
「群馬クレインサンダーズがある生活を作り出していく」
──沖縄や宇都宮、秋田など地方都市でも既にバスケ文化が根付いているところはあります。群馬という新しい土地での挑戦になりますが、意識されたことはありますか?
群馬独自の文化という点では意識はしていません。一つの新しい文化を私たちがこの土地で作るという覚悟を決めてやっているので、特性やエリアは関係なく、オプアリを中心に街を作り、バスケットの聖地にしていこうと尽力していきます。秋田は能代工業高校が強豪校になり、駅にリングができたりしてバスケの街になりましたが、私たちはバスケの街を作るという覚悟でゼロから文化を作っていくところです。始めたばかりですが、この取り組みが10年、20年経った時には『太田=バスケの街』という認識が生まれると信じています。
──売上が大幅にアップ(20-21シーズン5億4571万円→21-22シーズン9億5644万円)していますが、この要因はなんでしょうか?
オープンハウスグループがチームを完全子会社化した時には、お客様の数も少なく恵まれているとは言えない観戦環境でした。そこから変えていくために最初に考えたのが新アリーナを作ることで、すぐに動き出したところ太田市が手を上げてくれました。チームを完全子会社化した時の売上は1.5億円でした。太田市に移転して太田市長をはじめ自治体が、みんなでクラブを応援しようと同じ方向を向いてくれていますし、応援していただける企業様も栗原医療機器店様をはじめ増えています。おかげさまでチケットも売れているので、事業として少しづつ成り立ってきました。今シーズンの売上12億円(新B1基準)の目処は立っていて、アリーナ基準はオプアリが完成すればクリアします。仮に今シーズンの平均観客数が3,000人を超えれば、新B1参入の3次審査の条件(単年で売上12億円+観客動員3,000人)をクリアします。
──オープンハウスグループ参入以降の群馬の戦い方は、展開が速く得点がたくさん入り、初めて観戦に来た人も楽しめる分かりやすいスタイルだと感じています。観客動員数アップのために選手の編成も意識されたのでしょうか?
「群馬のバスケって面白いよね」と思ってもらえることも一つのエンターテインメントですので、この軸は今後も続けたいと思っています。個性的な選手が集まっている中で、しっかりとした文化を作っていくことを水野宏太ヘッドコーチには任せています。勝利をすることが最大の目標ですが、お客様に楽しんでもらえるバスケットボールをするという二つを大切にしています。水野ヘッドコーチとは同じ目標に向かって一緒に取り組んでいきます。
「地方での街づくりを成功させて、良いロールモデルになりたい」
──オプアリもクラブ運営もポジティブな印象を受けましたが、現状の課題があれば教えてください。
お客様の駐車場は大きな課題ととらえています。例えば沖縄アリーナは駐車場が少なくて近隣のショッピングモールの駐車場からピストン輸送してますが、最初からその方式を採用しているので当たり前になっています。私たちは駐車場問題を向き合うべき課題としてPDCAを回しながら変化していく必要がありますが、物理的なスペースが少ないので何かしらの解決策を見つけていかないといけません。自治体とも協力して、お客様が駐車場に対してストレスのない状況を作っていきます。
──オプアリの完成がまずは大きな区切りになると思いますが、次の仕掛けがあれば教えてください。
オープンハウスグループで戸建ての分譲を太田市内で始めていて、太田市を魅力的な街にしていきたいと考えています。オープンハウスで家を買って、観戦に来て、ファンになるという群馬クレインサンダーズが生活の中にあるという取り組みを続けていきたいと思います。休日に太田市運動公園へ行って、OTAマルシェ(ホームゲーム時に太田市運動公園内に飲食店などが出店するイベント)があって、バスケの試合があって、ゆくゆくはチケットがなくてもアリーナの外の大型ビジョンで試合が見られるようにして、バスケが身近にある街にしていきます。東京でやった方がビジネス的には儲かりますが、地方創生は国の課題でもあり、私たちが地方での街づくりを成功させて、良いロールモデルになりたいという気持ちがあります。