文・写真=松原真

今夏のインターハイ制覇で全国大会での優勝回数を60とした井上眞一監督。毎年選手が入れ替わる高校バスケットボールで常勝チームを作り続ける実績はもちろん、選手との間の良好な関係が卒業後も長く続くのが特徴だ。バスケットコーチとしての手腕だけでなく、生徒たちの『父親』としての存在感、関係性をいかにして築いているのか、その秘訣を聞いた。

選手の成長を見るのは勝ち負けを抜きにして楽しい

──今回は監督と選手たちのコミュニケーションについて教えていただきたいのですが、選手と接する上で意識していることはありますか?

特に意識していることはありません。できれば、部員22人に一日一回は声をかけてやれるようなコミュニケーションを取れればいいと思っています。

──Wリーグや日本代表で活躍している桜花学園の選手に取材すると、井上監督の名前がよく出てきます。この結び付きの強さはどうやって生まれるのでしょうか。

簡単に言うと、生徒がかわいいんですよ。バスケットが好きだということと、3年間で成長してうまくなっていくのが見えるので、それは勝ち負けを抜きにしてすごく楽しいです。そういう意味で私は選手に自然体で接するし、選手も変に意識することなく自然に接してきます。

──それが『のびのびとした』桜花学園バスケットボール部の雰囲気になっているのですね。

意識してなれるものではないので、私は自然に接しています。本当の理想は、選手が私から自立して、自分たちで物を考えて組み立てられるようになること。自立が必要だと思います。『私の言ったことだけをやれ』というような管理はしたくありません。

選手個々の良さを最大限引き出すようなチーム作りを

──監督は一貫して体罰否定派です。厳しく指導する強豪校であればあるほど、今の時代も体罰は残ってしまうものかと思いますが、これについてはどうお考えですか?

自分で自分のチームを管理しないといけない、自分のカラーに染めなければならない、そう考えて「あれをしろ」、「これをしろ」ということを徹底していくと、どこかで無理が来て体罰になるのかなと思います。

極端に言うと、生活指導とひっくるめてバスケを考えて、「バスケがうまくならないのはお前の生活態度が原因だ」みたいに考える指導者は、どうしても体罰につながってくる。でもそれはバスケットの指導力がないからです。指導者が「絶対にこうでないといけない」という発想になると体罰はなくなりませんね。

──監督が選手の特徴に合わせるので、『桜花学園のバスケット』はその年によって異なると言われています。

そうですね、毎年5人の特色が違うので、それに合わせたバスケットを毎年作り上げていくのが私のスタイルです。昔に勝った時代の型にいつまでも選手を当てはめていくやり方はしないです。世界を見てもバスケットは年々変わっています。新しいものを取り入れながらのチーム作りを私はしていますし、選手個々の良さを最大限引き出すようなチーム作りをしています。

──常に最新のバスケットボールを勉強されているとうかがいました。

今はNBAやNCAAを見ようと思えばいくらでも見れます。アメリカに行っている若い選手もたくさんいます。例えば今年のインカレで優勝した白鴎大学の佐藤智信はドゥエイン・ケイシー(ラプターズのヘッドコーチ)のところに行っているし、2位になった東京医療保健大学の恩塚亨はデューク大に頻繁に行っています。NBAであれNCAAであれいろんな知識を持っている彼らに対して、私は遠慮なく「教えて」と言います。年上のプライドがあるから聞かない、なんてことは全然思わない。良いものは良いのでそれは取り入れる。全部が全部ではないですが、自分のチームに合ったものは取り入れるようにしています。