準々決勝まで勝ち上がるも、パス思考に陥りオフェンスの歯車狂う
28年ぶりのウインターカップ制覇から一年。昨年の優勝メンバーが多く残った今年は、ゲームキャプテンの湧川颯斗を筆頭に195cmオーバーの選手たちが先発に名を連ねる大型チームとなった福岡大学附属大濠。特に湧川はポイントガードに転向し、チームの大型化を象徴するような選手に。また、昨年のウインターカップでルーキーながら200cmの高さを生かしたダイナミックなプレーで大会ベスト5に選ばれた川島悠翔は、パワーフォワードからスモールフォワードにポジションアップすると、今年の8月に行われたU18アジア選手権では日本代表の準優勝に貢献。自身も大会のオールスターファイブに選出されるなど、国際大会でもコンバートした成果を発揮してきた。
迎えたウインターカップは、初戦から高さとフィジカルを生かしたプレーで試合を優位に進めて快勝。特に3回戦の阪南大高戦では川島が3ポイントシュート3本を含む30得点13リバウンドとオールラウンドに活躍するなど、ビッグラインナップを存分に生かし、準々決勝に進出した。ベスト4をかけて対戦した藤枝明誠は今夏のインターハイで3位となり、今大会でもオフェンシブなスタイルで勝利してきた。そして、この試合も藤枝明誠がオフェンスから主導権を握った。
今大会2位の平均26.5得点をマークした赤間賢人のシュート力を生かしたセットプレーや個人技によって、第1クォーターに最大12得点のリードを藤枝明誠に許してしまう。大濠もバックコート陣のミスマッチを狙って得点機会を増やすも、シュートを決めることができずなかなか乗り切れない。また、このクォーターだけで9ターンオーバーと精彩を欠き、4点ビハインドで最初の10分間を終えた。
第2クォーター、大濠は残り4分にチームキャプテンを務める鍋田憲伸の得点で1ポゼッション差まで迫るが、あと一本決まらない。また、ミスマッチを突いてドライブなどでリングを狙うも、その前に立ちはだかる208cmのボヌ・ロードプリンス・チノンソが気になり、後ろにパスを出してターンオーバーとなる場面も散見された。チームを率いた片峯聡太コーチは言う。「今日のゲームはみんなパス思考の雰囲気がありました。ボールを持ったら後ろを見たり、横を見たり。リングは常に前にあるのにっていうところでした。そこが悔やまれます」
9点ビハインドで迎えた後半、第2クォーターにも見せていたオールコートでのプレスディフェンスでボールを奪おうとするが、藤枝明誠の冷静なボールコントロールと高いハンドリング力で突破されてしまう。それでも何度かディフェンスが成功し、速攻を仕掛けるもパスミスなどでなかなかチャンスを生かせずにいた。しかし、ベンチメンバーの芦田真人がファストブレイクから3ポイントシュートを決めるなど意地を見せると、湧川や川島もリバウンドでチノンソを上回り、6点差で最終クォーターを迎えた。
第4クォーターに入ると、ここまで粘り切れていたリバウンド争いを制することができず、オフェンスリバウンドを与えてしまうと、チノンソのフリースローやセカンドチャンスポイントで点差を2桁に戻されてしまう。さらに、残り1分半にはリバウンド争いに飛び込んだ湧川が個人5つ目となるファウルをコールされてベンチへ。残った川島らが最後まで奮闘するも、残り2分からシュートが1本成功とこのクォーターのフィールドゴール成功率16.0%と最後まで正確さを欠き、64-78で敗戦。大濠は準々決勝で姿を消すこととなった。
「自分たちの気持ちが弱かった」ここから本当のエースへ
試合後、片峯コーチは次のように試合を振り返る。「ウチはサイズとフィジカルで勝っているのでそこをしっかり出していこうと話していましたが、みんなが浮足立ってしまいました。上でブロックしようと飛んでしまい、藤枝さんはそれをかわして3ポイントシュートやフェイクからのミドルシュートでしっかり繋いできました。そこから慌てている感じや動揺がチームにありました。また、見極めの悪さが最終的にミスに繋がったプレーも非常に多かったです。そういったものが多く出ると全国のトップクラスのチームには勝たせてくれないとあらためて痛感しました」
そして、この試合をフル出場し、3ポイントシュート7本中1本、2ポイントシュート13本中3本で12得点に終わった川島は「負けたことが信じられなくて、まだ追いつけていない」と、茫然としながらも不振に終わった自分を責めた。「負けたのは自分のスキル不足。ただそれだけだと思います。序盤は結構攻めることができていると思ったんですけど、途中から自分が攻めなきゃいけない時に仲間を頼ってしまいターンオーバーになってしまいました。明誠さんはリバウンドもディフェンスも頑張っていて、そのメンタルに自分たちは負けたと思います」
「絶対に連覇する気持ちでプレーしたんですけど、自分たちの気持ちが弱かった」
こう悔やむ川島はこの日から来年のウインターカップに向けて前に進んでいくしかない。チームを勝たせる選手となるために片峯コーチは次のように期待する。「相手のマッチアップによって相手にダメージのあることを動揺することなくできるようになってもらいたいです。今日は精神的なところと体力的な疲れでそこまで頭が回らなかったのかもしれませんが、そういったところまでできるようになると、本当のエースになれるんじゃないかなと思います」
来冬、本当のエースとなった川島が東京体育館に戻ってくることを待ち望む。