エマニエル・ムディエイ

文=神高尚 写真=Getty Images

自信を取り戻し、弱点を強みに変える活躍ぶり

新ヘッドコーチにデビッド・フィッツデイルを迎え、再建を目指すニューヨーク・ニックスは、5勝14敗と苦しいスタートを切りました。エースであるクリスタプス・ポルジンギスがケガで長期離脱中ということもあって、焦らずしっかりとチームを立て直す意向を明言していることもあり、目先の勝利よりも選手一人ひとりの能力の見極めと成長を促すことに注力しています。

ここ2年のドラフトで指名したフランク・ニリキナ、ケビン・ノックス、デミアン・ドットソン、ミッチェル・ロビンソンはプレータイムを与えられながら、同時にそれぞれの課題に向き合い、成長を促されています。スターターの試合もあれば、ベンチスタートの時もあるなど、無条件で重用されているわけではなく、チーム内の競争原理も働いており、ローテーションが固定されていた昨シーズンとは全く違うチーム状況になっています。その競争にはニックスが大きな期待をしてドラフト指名した選手以外の若手たちも参加しています。

現地11月23日のペリカンズ戦では、そんな若手2人の大活躍で6勝目を手に入れました。1人は昨シーズン途中でナゲッツからトレードで獲得したエマニエル・ムディエイ。ポルジンギスと同じ2015年にドラフト7位指名を受けルーキーシーズンに活躍したものの、有望な若手の多いナゲッツでポジションを確保できずニックスにやって来ました。もう1人はアロンゾ・トリアー。ドラフト1位のデアンドレ・エイトンと同じアリゾナ大からアーリーエントリーしながらドラフトで指名されず、サマーリーグで結果を残しニックスとの2ウェイ契約を勝ち取ったルーキーです。

ドラフト時にその才能を高く評価され、ニックスがポルジンギスを指名した時には「なぜムディエイを指名しなかったのか」とさえ言われたムディエイは、フィジカルな突破が武器のポイントガードです。ルーキーシーズンには5.5アシストを記録し将来性を期待されていましたが、ドライブからのフィニッシュの精度が悪く、フィールドゴール成功率が40%を下回り続け、ナゲッツでは高いシュート力を誇るジャマール・マレーとのポジション争いに負けてしまいました。

またポイントガードとしては状況判断にも課題があり、特に昨シーズンはニックスに加入したのがシーズン中だったこともあって周囲との呼吸が合わないシーンが目立ちました。ムディエイ自身も高い期待度に反するプレー内容に自信を失っているようでした。

今シーズンのニックスは複数のポイントガードを同時にコートに立たせるなど、特定の選手がゲームコントロールするのではなく、共通理解の下で全員が積極的にシュートを狙うことを求められ、特に3ポイントシュートはチームで5.9本も増えておりアウトサイドからの攻めが徹底されています。この変化がムディエイから迷いを消しました。相変わらずアウトサイドシュートの正確性を欠くものの思い切りが良くなり、ドライブを選択した時にはパスよりも自分で決めることが大前提になったことで、レイアップの成功率が47.3%から62.2%へ向上し、フィールドゴール成功率は50%を超えるように。弱点だった部分が強みにすら変化してきているのです。

ペリカンズ戦でのムディエイはフィジカルの強さを生かした強引な突破で、激しくコンタクトしながらもシュートを決めきるシーンが目立ちました。3ポイントシュートは6本中1本しか決まりませんでしたが、2人に囲まれながらも速攻に持ち込んだり、狭いコースをマークマンに身体を預けてブロックさせないようにレイアップ。あるいはディフェンスにぶつかりながらもゴール下をねじ込み、ゴール下までアタックした8本中7本を決めるなど、足りなかったドライブからのフィニッシュ力を存分に発揮して、チームハイの27点を稼ぎました。

2ウェイプレーヤーながら主力の働き、トリアー

トリアーはアンダーカテゴリーのアメリカ代表として世界選手権での優勝経験もあるのですが、ドラフトから漏れたように身体能力やスキル面ではNBAレベルでは中心選手として期待されるほどの特長を持っていません。例えば2巡目で指名されたミッチェル・ロビンソンは荒削りで総合力は高くないものの、圧倒的な高さを武器に『動けるセンター』としてブロックショットを連発します。総合的な能力はあるもののインパクトに欠けるトリアーとは対照的な存在です。

しかし、トリアーが持ち合わせていたのは判断力。ヘルプディフェンスに囲まれそうなスペースにドライブすることはほとんどなく、ボールをもらっても逆サイドのスペースが広いなら迷わずパスを振ります。自分自身のアピールのためにガツガツと仕掛けるのではなく、コートの中でどこが最も効果的に攻めることができるのか、そしてディフェンスが次にどう動くのかを予測してプレーを選びます。特別なスピードも優れたハンドリングもしないのに、スルスルと抜けていってレイアップを決め、さらには高いシュート能力も持ち合わせ、3ポイントシュート成功率は47%を誇ります。

ペリカンズ戦でのトリアーは3ポイントシュート3本すべてを決め、速攻でのダンク、そして間を抜けてのレイアップと得点を重ね、ムディエイに次ぐ25点を取り、4アシストも記録します。それ以上に印象的だったのはディフェンスでボールマンをマークしていない時に何度も首を振って周囲の状況を確かめ、細かくポジションを修正していたことで、マークのイートワン・ムーアに仕事をさせませんでした。

ガードながら直近7試合すべてでフィールドゴール成功率が50%を超えるムーアは、相手の逆を取るのが上手くディフェンスがボールに目をやった瞬間にマークを外すようなタイプのベテランですが、ムーアが決めたシュートはトリアーがマークしなかった時間の1本のみ。首振りでの状況判断とポジショニングで抑えきったのです。

接戦となったペリカンズ戦、トリアーは最後にジュルー・ホリデーのマークを担当しました。スクリーンを避けてホリデーに張り付き、突破を許さずにパスを選択させると、ムディエイがそのパスを読んでスティールします。2人の見事なディフェンスの連携でペリカンズを止めました。

試合を決める得点を奪ったのはムディエイで、ディフェンスリバウンドをとったトリアーからボールを受け取ると、プレッシャーディフェンスをはねのけてドライブからリバースレイアップを決めます。ファウルで止めてくるペリカンズに対してしっかりとフリースローも決め、第4クォーター残り7分、7点ビハインドの場面で登場してから15点を奪いました。トリアーも6点で続き、ニックスが挙げた最後の23点のうち、この2人が21点を奪う決定的な仕事を見せ、逆転勝利を生み出したのです。

ドラフト7位として大いなる期待をされながら成功をつかめずニックスで再浮上を期するムディエイ、ドラフト指名を得られずドラフト外でサマーリーグから生き残ったトリアー。2人は同じ1996年生まれの22歳。ニックスの再建には苦労しながらも成長し、大きく飛躍しようとする若手がいます。