水越悠太

桜丘はこの春、チームを17年間率いて全国区の強豪へと引き上げた江﨑悟コーチが勇退し、教え子でありB3でプレーした経験のある水越悠太が後を継いだ。江﨑は水越について「私みたいにバスケの騙し合いは得意じゃないかもしれないが、すごく真面目で誠実な指導者。私は水越を恩人だと思っている」と語る。江﨑が桜丘に来て最初に勧誘した選手の一人であり、水越が3年生の時に桜丘は初めて全国大会に出場。後の強豪へと続く道を切り開いた。「私の原点」という母校に戻った水越は、恩師のスタイルを引き継ぎつつも大学とB3で得た経験をチームに還元して、全国に挑む。

「気付いたら勝っていた、あっという間の3年間」

──まずはこれまでのキャリアを含めた、水越コーチの自己紹介をお願いします。

桜丘のバスケットボール部ヘッドコーチの水越悠太です。私自身が桜丘出身で、江﨑先生が赴任して間もない頃に誘っていただきました。当時の桜丘は中学で実績のある選手が入ってくるチームではなく、私も県大会に出たこともない、実績は何もありません。野球もやっていたので、そちらでの進学も考えていたぐらいです。

それでも江﨑先生にバスケでお声掛けをいただき、これからバスケ部を強化するという姿勢に魅力を感じて桜丘を選びました。1年、2年と全国大会にはほど遠いチームだったんですけど、3年生の時に初めてインターハイとウインターカップに出場することができ、一つずつ階段を駆け上がる楽しさを味わうことができたので、大学でもバスケを続けたいと中京大に進学しました。

高校では「やれ」と言われたプレーをそのままやっている環境でしたが、大学ではバスケはもちろん人間関係のようなコート外のことも含めて『自分で考えること』を大事に、松藤貴秋コーチに指導していただきました。

それからご縁があって豊田合成スコーピオンズから声を掛けていただき、B3のチームで5年間プレーしました。そして、桜丘中学からチームを強化したいと誘っていただいて桜丘に来たのが4年前です。今年から高校を指導するようになりました。

──桜丘ではキャプテンとしてチーム初の全国大会出場を経験しています。プレーヤーとしての桜丘での3年間はどんなものでしたか?

初めて全国大会に行ったのですが、チームが強くなる過程を振り返っても正直あまり印象がありません。本当に江﨑先生の言うことを信じて練習して、ダメだと言われたらみんなで直す、その繰り返しでした。

良い意味で江﨑先生に操られたと言いますか、江﨑先生のバスケをみんなが忠実に体現しようとして、練習から試合へとコートの中で表現していく。今の高校生はいろんなところから情報を得てバスケの知識を持っていますが、私たちの頃は何もなかったので、先生の教えをひたすら学ぼうと一日一日をやりきる中で「気付いたら勝っていた」という感覚です。あっという間に過ぎた3年間でした。

水越悠太

「私の原点、桜丘で指導したいという思いが強かった」

──まだ32歳、現役でもおかしくない年齢です。プレーに未練はありませんでしたか?

私が大学生だった頃には正直、Bリーグがこれだけ大きくなるとは想像できませんでしたし、プロになりたい思いが強くあったわけではないんです。それよりも教員になりたい思いが大きかったところで、豊田合成に誘っていただきました。教員をやるにも良い指導をするにはいろいろな経験をすべきだと思っていたので、社会人として仕事をやって、プロのレベルでもプレーできたのは、私にとって一番良い環境だったと思います。

仕事をしながらどこかのチームでバスケを教えたり、Bリーグでコーチになることも考えたのですが、やはり私の原点は桜丘であったので、桜丘で指導したいという思いが強かったです。

──大学とB3を経験して、中学の教員として桜丘に戻って来ました。その時点でいずれ江﨑先生の後を継いで高校のチームを指導するつもりでしたか?

1年1年が勝負だという感覚で、中学のチームを見ていました。もちろん江﨑先生の年齢のことはあったし、時間がある時に高校の練習を見学していましたが、私の中では先のシナリオを持たずにやっていました。

──桜丘高校のバスケ部を任されるとなった時、どう受け止めましたか?

強いチームをコーチできる楽しみもありましたし、「自分で大丈夫なのか」という不安もありました。でも、どちらかと言えば楽しみの方が大きかったですね。ただ江﨑先生と私では指導力の差は歴然としているので、もっともっと勉強しなければいけないと痛感しています。

水越悠太

「真剣に戦いながらも元気良くバスケを楽しむ姿を見てもらいたい」

──江﨑先生のスタイルの良いところを受け継ぎつつ、水越コーチの色として出していきたいものは何ですか?

チームディフェンスです。今まで桜丘のバスケを見ていると、オフェンスは強いのですがディフェンスでもったいない失点、簡単に与えてしまう失点の多さが気になっていました。トランジションディフェンスであったり、相手が勢いに乗るような得点を与えないこと、そういう練習はやってきました。

逆に、ウインターカップの県予選では『桜丘らしさ』を欠くことがチームの弱さだと分かったので、ウインターカップに向けて『桜丘らしさ』を取り戻せるように取り組んでいます。

──『桜丘らしさ』とはどんなものですか?

今やっているのは、5アウトから始まってスクリーンとカッティングで得点を狙う『エイトクロス』です。全国で準優勝した時代でも桜丘がチームとして一番やってきたもので、そこをもう一度みんなで学んでいます。

──高校の指導者としてのデビューシーズンにウインターカップに出場します。どんな大会にしたいですか。

「走って、守って」は大前提で、そこから今やっている新しいオフェンスのバリエーションを練習通りに出していきたいです。私としては『桜丘らしさ』をちゃんと作り上げて大会に臨みたいですが、指導者の自己満足ではなく選手たちが最後までやりきって、「こういう舞台でやれて良かった」と思ってくれたらうれしいですね。私自身は一日一日を大切にして、選手の成長を見守りながら自分も成長していきたいです。

──ウインターカップでは、桜丘のどんな部分に注目してほしいですか?

他のチームよりも元気良く、プレーを楽しんでいる部分ですね。もちろん勝負事なので面白おかしくやっているわけではありませんが、真剣に戦いながらも元気良く、コートにいる選手たちもベンチも、どれだけバスケを楽しんでいるかを見てもらいたいです。