ビクター・ウェンバンヤマ

ウェンバニャマ目当てに「わざと負けるチーム」が頻出?

NBAコミッショナーのアダム・シルバーは、プレシーズンゲームが行われたアブダビでの会見で「NBAの多くのチームがロッタリーで得られる成果に期待するのは理解できる。しかし、どのチームも一生懸命に競争してもらわなければならない」と語った。

彼が今あえてこう発言するのは、ビクター・ウェンバニャマが一大センセーションを巻き起こしているからだ。フランスでプレーするウェンバニャマは、220cmの身長に234cmのウイングスパンがあり、走れて跳べる18歳は来年のNBAドラフトの目玉となっている。

もともとドラフト全体1位指名の有力候補ではあったが、彼が所属するフランスのメトロポリタンズ92がラスベガスに招待され、Gリーグのイグナイトとエキシビジョンゲーム2試合を戦った。ここでの衝撃的なパフォーマンスにより、ウェンバニャマの評価は一気に上がった。ジャンプすれば頭がリングに届き、多少揺さぶられても長い腕を伸ばしてブロックショットを成功させる。そして長身選手でありながらスキルも高く、ジャンプシュートの精度はすでにケビン・デュラントと比較されている。

ウェンバニャマの印象を問われたレブロン・ジェームズは「ここ何年かで見たことのないレベルの選手だ。エイリアンのような存在だね」と称賛の言葉を語っている。同じくステフィン・カリーも「NBA2Kで作った選手だね」と、彼らしい表現でその才能を語った。

それでいてウェンバニャマ本人は「僕は何も変わらない」と、周囲の喧騒をよそに至って平静だ。「僕はまだNBAでプレーしたわけじゃないし、ドラフトで指名されたわけでもない。だから、自分の目標に到達するまで集中し続けるよ」と語る。

NBAでは、基本的に前シーズンの順位が低いチームからドラフトで選手を指名できる。ただ、これはタンキング(指名権を得るためにわざと順位を落とす行為)の要因となるため、ドラフトロッタリーという制度が取られている。全体1位指名権を得る確率は、下位3チームは14%で固定。以下、下から4番目のチームが12.5%、5番目のチームが10.5%、6番目が9%と下がっていくものの、下から14番目のチームにも0.5%の可能性が残され、プレーオフに進出しないチームすべてに何らかの可能性があり、意図的に順位を下げる意味を減らしている。

リーグ側としては、タンキングはNBAの試合の価値を下げる行為として受け入れられない。だが、ファンもメディアも弱小チームが手っ取り早く強くなる策としてタンキングの有用性を認め、リーグにとっては都合の悪いことに、積極的に支持することもある。

ロッタリーの景品がウェンバニャマほどの『当たり年』となればなおさらで、シーズン終盤ならともかく序盤から露骨なタンキングに出るチームが出てくるかもしれないし、それをきっかけにリーグ下位が「いかに負けるかの勝負」という様相を呈してしまえば、レギュラーシーズンの試合の価値は落ち、リーグは大きな損失を受ける。

だからアダム・シルバーはこれに釘を刺そうとしているが、おそらく効果はないだろう。ウェンバニャマはそれほどのインパクトがあるからだ。