文=大島和人 写真=B.LEAGUE

ハック戦術に遭いフリースロー成功率10%も『自分次第』

「第2クォーターは──」と記者が質問を始めると、ファイ・パプ月瑠は少しうつむいて苦笑いを浮かべた。彼は『ハック・ザ・パブ』とでも表現するべき、ファウル前提の徹底マークを受け、10分間で10本のフリースローを放つチャンスを得た。しかし成功はわずか1本。『10%』はあり得ないほどの低い成功率だ。

ただ彼はプロバスケ選手。翌日に試合もあるし、気持ちを落としている暇はない。パプは敢えて堂々と、早口に(もちろん日本語で)語り始めた。

「富山のアウェーではフリースローがよく入った。今日もその意識を持って、絶対にファウルから逃げずに、もらったらしっかり決めようと思っていた」

ただし、「フリースローが落ちてくると、相手も楽にファウルができる。そこを決めることで自分もチームも楽になるし、点数ももっと伸びた」と悔いる。

1本目、2本目のフリースローが決まらなかったことでメンタルが乱れ、悪循環に陥った部分もあった。ファウルを受けてイライラさせられた部分があったかもしれない。ただ彼は自らへ言い聞かせるように『自分次第』を強調する。

「あきらめずに、ファウルをされても落ち着いて、そこを決めるのは自分なので。そこを決めれば、相手はどうにもならない。喧嘩はいらないし、大人しく、もらってもしっかり打てるように。逃げないし、イライラも言わない。慣れてきたので、フリースローも練習しているし、明日もまた来ると思うのでしっかり決められるように。一発目で2本決めればファウルも来なくなると思います。一発を見せられるようにしたい」

「ブースターのために、この1年は横浜でやろうと決めた」

アフリカのセネガル出身で、延岡学園高に留学し、関東学院大でも4年間プレー。その後は横浜ビー・コルセアーズに2シーズン在籍していた。2012-13シーズンには晴れのbjリーグ制覇も経験している。そこからは別のクラブへプレーしていたが、今シーズンは大学時代も含めて既に6年間暮らし、「街へ行きやすいし、友達もいっぱいできたし、住みやすい」と言う横浜の街へ4年ぶりに戻ってきた。

「10チームくらいからオファーがあったけど、安心できるか分からなくて……。横浜はブースターさんが応援してくれるし、切れないし、悪い言葉を選手に投げたりしない。そこが素晴らしいと思う。他のチームの方が条件はいいのかな、というのもあったけれど、お金じゃなくて、横浜のブースターのために、この1年は横浜でやろうと決めた」

彼はビーコルブースターへの感謝も口にする。

「いろんなコメントをTwitterでも見たりするし、『戻って来てほしい』と契約の前から言ってくれて……。仕方なく出て行って、チャンスがあったら戻ってきたい、横浜に戻りたいなという気持ちが残っていたので、それがなければ他のところでやったと思う。連敗で観客が減るかと思ったら、変わっていなくてとてもうれしかった。もっと入ってもらえるように、しっかり試合に勝つことだと思います」

チームはホーム戦6連敗中だったが、19日の富山クラウジーズ戦で待望の初勝利を挙げている。自身にとっては悔しさも残る試合だっただろうが、ブースターに喜びを届けることはできた。

彼は15年には日本国籍を取得し、16年のリオデジャネイロ五輪世界最終予選前には代表候補にも入った。ただ直近の代表は帰化選手枠で渋谷サンロッカーズのアイラ・ブラウンが起用されており、彼は代表から離れている。

パプは「代表を応援しているけど」と言いつつ、こう続ける。「何としても代表に戻ろうという気持ちは今のところないです。自分の仕事を横浜でしっかりやっていけるようにしたい」

まずはクラブでしっかりと存在感を示すことが、彼のミッションだ。ブースターの温かい後押しに応えるため、パプは『横浜愛』をエネルギーとして、くじけずに戦い続ける。