文・写真=小永吉陽子

日本代表の長谷川健志ヘッドコーチは7月のオリンピック世界最終予選(OQT)終了後、2019年ワールドカップ予選に向けて始動する際にこのように語っている。「日本のレベルを上げるためには全体的なレベルの底上げが必要」

国際大会を戦う経験者を増やし、日本全体の底上げを図る。今年度、キャリアの浅いメンバーが継続的に選出されているのは、そうしたコンセプトの中で強化する方針があるからだ。そんな代表初選出組の中でパフォーマンスを発揮しているのが、篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)と遠藤祐亮(栃木ブレックス)だ。

篠山竜青──ポイントガードとして、リーダー格としての期待

今年の篠山竜青には休む暇が全くない。6月上旬まで、東芝ブレイブサンダース(現川崎)の司令塔として5戦までもつれたNBLファイナルを戦い、その直後にはOQTの最終16名の候補として中国遠征のメンバーに選出された。OQTの最終12名には残れなかったが、その後は7月末の台湾でのジョーンズカップとジョージ・ワシントン大との国際親善試合、9月にはFIBAの公式戦であるアジアチャレンジに選出され、怒涛の夏を過ごした。そして今回は台湾遠征のメンバーに選出。ジョーンズカップと台湾遠征ではキャプテンを務めている。

178cmの篠山に期待されていることは、ポイントガードとしての速い展開やディフェンス面があるが、特に買われているのがリーダーシップだ。「リーダーシップは技術の一つだと思うので、篠山にはそこをアピールしてほしい」と長谷川ヘッドコーチ。国際大会で自己表現が苦手な日本人選手だからこそ、リーダーの資質は育てて伸ばしていかなければならない。

そんな篠山はこの1年間、継続的に日の丸をつけることで、アジアチャレンジあたりから自分の良さであるスピードと要所でのシュート力を発揮できるようになってきた。国内では優勝経験のある篠山だが、日本代表ではまだ1年目。プレータイムを奪えなかった6月の中国遠征の頃を思えば、日本代表の環境に適応した半年後の今は格段の伸びを見せている。

そして、自身が中国遠征の際に、先輩たちから日本代表のルールや攻防のシステムを教わって理解したように、今遠征では、初選出組の安藤誓哉、中東泰斗、笹山貴哉に同様のことを伝えている。これもまたリーダーの役目である。

とはいえ、メンバーを見渡せば、同じポジションには安藤や笹山らイキのいい若手も入り、自身もうかうかしていられなくなった。それでも篠山はこう言う。「僕はまだ代表1年目。今はどんな大会にも呼ばれることがうれしいし、これからも代表に定着していくことが自分のモチベーションになっているので、僕は僕なりに、国を代表して戦う意味を考えながら、毎大会、毎試合やるだけです」

今年に入って毎大会、毎試合と選ばれている篠山にとっては、コンディション面が課題でもある。そのことについて質問すると「ははは……」と笑い、一呼吸置いてからこう言った。

「コンディション作りは難しい面もあります。正直に言えば、かなり大変です。でも日本はアジアでもこれからの国なのに、偉そうなことを言える立場じゃないですよね。今はとにかく練習して、経験するしかないです」

覚悟が備わってきた28歳のチームリーダーは、最後に自分が抱える新たなテーマについてこう述べた。

「日本代表に入ってからコンディションの重要性をすごく考えるようになりました。代表と自チームのトレーナーさんと連携を取って体を整えていくことは重要だと実感しています。だからBリーグでも徐々に徐々に調子を上げて行きたい。ウチはこれから上がっていきますよ、これからです」

遠藤祐亮――ディフェンスで見いだした自分の価値をアピール

遠藤祐亮がD-RISE(栃木ブレックス下部組織の育成チーム)出身であることを知る人はどれくらいいるだろうか。

市立船橋高、大東文化大では主力メンバーとして活躍してきたが、これといって売りになる特長はなかった。自身も「高校も大学も頑張ってきたつもりだけど、今思えば中途半端で、とてもではないが日本代表なんて夢のまた夢だったし、入りたいと思うこともなかった」とまで言う。

しかし、D-RISEに入団した年にすぐに栃木ブレックスに引き上げられてからは着実に成長の階段をのぼり、今やディフェンス面での存在感が一際光る。特に今年になってからは、得点面でもチームが欲しい時に速攻や3ポイントを決めて引き離すチャンスを作るキーマンになっている。体格を見ても分かる通り、この1年で体の厚みや幅が出てきて、コンタクトプレーの強さも増してきた。

転機はトーマス・ウィスマンヘッドコーチにディフェンスを認められた2シーズン前だ。指揮官はディフェンスで光るものを見せていた遠藤に、フォワードの外国人選手にマッチアップする機会を与えた。「それまでは自分がディフェンスでハードにできるという良さにも気づいていませんでした。そこに気づかせてくれたのはブレックスがディフェンスのチームだったから。ディフェンスを頑張ろうと、やりがいができたんです」

もう一つの上昇のきっかけは、やはり初選出された日本代表だ。ジョーンズカップとジョージ・ワシントン大戦では、ディフェンス面ではアピールできても、オフェンス面ではシュートを打つチャンスは限られてしまった。そこで、「もっと自分を出さなければ次は選ばれない」という危機感が出てきたのだ。

本人に性格自己分析をしてもらうと、「消極的」「気を遣いすぎる」といった言葉が出てくる。国際大会の戦場では、そうした気後れしがちなタイプは戦ってはいけない。そんな自分を変えたいと思っている遠藤にとって、日本代表はタフネスさを身につけるチャレンジの場である。

「この台湾遠征では少ないシュートチャンスをどうモノにしていくか、それにチャレンジしようと思いました。メンタルの強さをつけられる良い機会を無駄にできません」

遠藤の場合、夏の代表活動の内容が良くて選出されたというより、代表活動で自己表現できなかった反省を生かしてBリーグで存在感を見せていることが、現在の代表選出につながっている。ディフェンスを頑張る相乗効果はオフェンスにも現れ、この2シーズンの平均スコアは4点台から、今季は10.8点まで上昇。3ポイントの確率も47.2%と高い数字を残している(第7節終了時点)。

各国の強者が集う国際大会での経験は、プレーだけでなく自覚の面でも成長させる。この1年でそのことを体現している2人は、今後も続く日本代表の試合にいつコールアップされてもいいように、Bリーグで存在感を見せることにチャレンジする。