ダニーロ・ガリナーリ

「代表引退を前に何か重要なタイトルを手に入れたい」

ダニーロ・ガリナーリはイタリアバスケ界が生んだ屈指のスター選手だ。ただ、アッズーリ(イタリア代表の愛称)の長い低迷の中で、代表チームにおける彼の評価は必ずしも良いものではなかった。ゴールデンエイジと呼ばれるタレント豊富な世代の代表格でありながら、チームが勝てないことで批判の対象となってきたからだ。

その最たるものがユーロバスケットの前回大会で、ガリナーリは大会前のテストマッチで相手選手を殴る事件を起こしている。退場処分を受けたことより、その後の論争が最悪だった。当時のヘッドコーチは「彼はチームに謝罪したが、憮然とした態度だった。実績のある30歳の男に責任感とは何であるかを説明しなければならないとは」と、メディアの前でガリナーリを批判した。ガリナーリは「僕はチームから孤立していた。ミスをした人間に誰も手を差し伸べなかった」と語ったが、これもチームを空中分解に追いやる結果となった。

ようやく両者の歯車が噛み合うようになったのは昨年のことだ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオリンピック最終予選の日程が変更になり、NBAのシーズン中のためガリナーリは参戦できなかったが、代表チームはセルビアを撃破して出場権を獲得。ガリナーリはアトランタから代表のチームメートに感謝の言葉を伝えた。

そして迎えたオリンピック、ガリナーリは膝の痛みを抱えながらもチームに合流。チームで最も国際経験豊富なプレーヤーでありながら、最終予選を勝ち抜いたメンバーを尊重してセカンドユニットに回ることを受け入れた。彼の自己犠牲精神がチームの結束力を高めるのに一役買い、イタリア代表は東京オリンピックでベスト8進出という好成績を残した。

ガリナーリは今月34歳になったが、まだキャリアのハイライトはこの先に訪れると信じている。「代表引退を前に何か重要なタイトルを手に入れたい」と言う彼にとって、今回のユーロバスケットは良いチャンスだ。ヤニス・アデトクンボやニコラ・ヨキッチ、ルカ・ドンチッチといったNBAのトップスターはイタリアにはいないが、ユーロバスケット優勝の必要条件はチーム一丸で攻守によくまとまり、連戦が続く大会で力を維持すること。チームがその条件を満たしている状況で、ガリナーリは今までとは違う働きができるはずだ。

ユーロバスケット終了後にも大きな挑戦が待っている。今オフにはセルティックスとの2年契約が決まった。彼は元プロ選手である父からNBAの映像を見せられて育ったが、幼少期に彼が最も多く見たのはラリー・バードであり、セルティックスだったという。昨シーズンにNBAファイナル進出を果たしたセルティックスは新シーズンも優勝候補であり、ガリナーリはチームをあと一歩引き上げる役割を担う。

「キャリアのこの時期になって、いかに優勝するかしか考えない。どうやればタイトルを取れるのかを考えて毎日を過ごしている」

NBAで12シーズンの経験を持ち、過去に在籍した5つのクラブですべて結果を残してきたガリナーリでも、いまだタイトルには恵まれていない。チームと彼自身がともに良い状態である今は、逃せないチャンスだ。