[CLOSE UP]辻直人(川崎ブレイブサンダース)新しい『辻直人のスタイル』を探す旅「今はまだ2割ぐらいです」

2016/11/07
NBA&海外
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文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE、黒川真衣

ピック&ロールの上達、そこからフィニッシュまでの展開

昨シーズンのNBLファイナルで、劇的な逆転優勝の立役者となりファイナルMVPに輝いた辻直人。このオフにはリオ五輪の世界最終予選を始めとする日本代表での過密スケジュールをこなし、Bリーグ開幕直前にケガをした状態でチームに合流。記念すべきBリーグ開幕節の2試合は欠場したが、その後は全試合にスターターとして出場している。

辻がいるチームは11勝1敗と驚異的なペースで勝ち星を重ねている。もっとも、辻は『完全燃焼』というわけではなかった。代表で得た課題に向き合い、選手としてもう一段階レベルアップするための試行錯誤の中で、個人の出来としてはベストに至らない試合が続いていたのだ。

最大の課題は、仲間を利用しながらノーマークや数的有利な状況を作るためのピック&ロールの上達。そこからパスやドライブに展開し、新しい『辻直人のスタイル』を作り上げることだ。

辻は言う。「アウトサイドのシュートには結構自信を持っていて、どの相手にも挑むことができると思っています。あとは中へのアタック。ゴールにアタックした時に、シュートなのかパスなのか、できればシュートで終わって、それを決めるフィニッシュ力ですね」

辻が追求しているのは、個人ではなく組織も含めた一連のプレーの質だ。「自分につくディフェンスというよりは、(川崎の)ビッグマンにつくディフェンスとの駆け引きを注意してやっています」と辻は言う。「まだまだ完成には程遠いですが、ピックのところで相手をよく見てプレーできるようになってきてはいます。そこでアタックして、その後のフィニッシュ力をつけていかないと」

試行錯誤は『迷い』でもある。日本屈指のスコアラーである辻にしては珍しく、得点が2桁に乗らない試合が続いてもいた。今節の横浜ビー・コルセアーズ戦を前にした1週間、辻は『原点回帰』したのだと言う。「新しいことを意識してやっていながらも、シュートが自分のフォームではないと感じていました。だからシューティングを打ち込んで、自分のフォームが戻った手応えはありました」

「駆け出しの段階で感覚をつかんできた、というところです」

そうして迎えた11月5日に行われた『神奈川ダービー』第1戦。ティップオフ直後、辻は自分にマークが来ないことに気付いた。「今シーズン、僕があまり調子が良くなくてパーセンテージが低かったのもあると思うんですけど。それで火が付きましたね」と振り返る。

結果、辻の3ポイントシュートが久々に爆発。後半に横浜の猛攻に飲み込まれ、逆転される苦しい展開ながら、辻は今シーズン最多となる6本の3ポイントシュートを決めてチームを救った。「ラッキーと言えばラッキーです。自信を取り戻せた部分もありますし」と、辻は第1戦を振り返った。

そんな辻について北卓也ヘッドコーチは「世界と戦って感じるものがあるらしく、いろいろと試しているのを私は我慢しながら見ています」と笑顔で皮肉る。「ただ忘れてほしくないのは、彼の強みは3ポイントシュートです。いろんなことをやりたい、という欲があるのは素晴らしいこと。でも、そうすると自分の強みが出づらくなる。それは相手にとって脅威ではないので。自分の強みを出しつつ、いろんなことをやってほしい」

『神奈川ダービー』に2勝した日曜の夜、辻は「今までパスの調子が良くても3ポイントの調子が悪かったんですけど、今日は2つとも調子が良かったかなと思います」と満足気な表情を見せた。

辻が目指す『理想形』は、同じバッシュを履くNBAウォリアーズのステファン・カリーだ。「カリーみたいにシュートが打てて、中に行って相手とコンタクトを取っても得点できるとか。パスもシュートもできる、そういうプレーをやりたいですね。今はまだ2割ぐらいです。駆け出しの段階で感覚をつかんできた、というところです」

強みである3ポイントシュートが決まれば、彼自身もノッてくる。今回の一件で、また辻へのディフェンスは厳しくなるだろうが、辻は「そこでまた今までチャレンジしていることを出せるチャンスだと思うので」と前向きだ。

ようやく調子を上げてきた辻直人。ステファン・カリーへの道は遠いが、北ヘッドコーチが言うように「欲があるのは素晴らしいこと」だ。新しい『辻直人のスタイル』は、徐々に形になってきている。