小野寺祥太

インサイドアウトからのパスを徹底し、3ポイントシュートを高確率で沈める

琉球ゴールデンキングスは5月14日、チャンピオンシップのクォーターファイナルで秋田ノーザンハピネッツと対戦。ディフェンスで試合を支配した琉球が77-56で制し、前日に続いての連勝でセミファイナル進出を決めた。

琉球は出だしからゾーンディフェンスでゴール下を徹底的に守ってくる秋田に対し、高確率で3ポイントシュートを成功。第2クォーターは5ターンオーバーを誘発するなど激しいディフェンスで秋田のリズムを崩し、29-9のビッグクォーターを生み出すと前半で18点リードと突き放す。

しかし、第3クォーターに入ると大量リードに油断が生まれたか、「秋田さんのディフェンスがゾーンからマンツーマンに変わった時、みんな棒立ちになってボールムーブがなく変なシュートで終わってしまう。そしてトランジションで全然戻らないとよく分からない状態になってしまいました。そこはしっかり向き合って克服しないといけないです」と桶谷大ヘッドコーチが振り返るように、立ち上がりから攻守で精彩を欠いた。その結果、秋田の猛追を許し、残り4分には4点差にまで詰められた。

この危機に琉球は落ち着きを取り戻し本来のやるべきチームオフェンスを徹底。ドライブからのキックアウトで、オープンになった並里成が貴重な外角シュートを2本連続成功させて悪い流れを断ち切る。これで盛り返した琉球は、反撃に多くのエナジーを使わざるを得なかった秋田のガス欠もあって、第4クォーターはわずか6失点に抑え込み楽々と逃げ切った。

第2戦、冒頭で触れたように琉球は秋田の極端なディフェンスもあり3ポイントシュートの試投数が34本とシーズン平均(22.2本)を大きく上回った。これは本来のスタイルではないが、ここで15本成功の成功率44.1%としっかり決めきったことが大きかった。

指揮官は「ドウェイン(エバンス)や(アレン)ダーラムからのインサイドアウトのパスが出てからのシュートを打とうと話しをしていました」と、シュートに行くまでの過程を重視したことで高確率に繋がったと語る。その中でも「そこで今日、一番良いシュートを打っていたのは小野寺(祥太)だと思います」と、3ポイントシュート5本中4本成功で本日チームトップかつ、この大一番でシーズンベストの14得点を挙げた小野寺を称えた。

小野寺祥太

「『シュートを打て』と前向きな言葉をもらい、シンプルな考えでプレーできた」

前日の第1戦、小野寺は9分半の出場で1得点と不発に終わった。そこには琉球3年目であるが故障離脱などもあり、自身にとって今回が初のチャンピオンシップ出場かつ、相手が琉球加入前に在籍していた古巣の秋田であることで、本人は「空回りしてしまっていました」と明かす。

だが、この試合では「今日はやってやろうというより、秋田ブースターさんもいっぱい来ていて成長した姿を見せることができればと思ってプレーしました」とマインドを変えたのが功を奏した。また、何よりもチームメートの励ましが、大きな助けとなったと言う。「昨日、シュート0本で試合前にいろいろな選手から『シュートを打て』と前向きな言葉をもらいました。そのおかげで空いたら打つとシンプルな考えでプレーできたのが今日の結果に繋がったと思います」

小野寺はローテーションの9番手、10番手といった存在だが、彼がどれだけ信頼されているのかは、ジャック・クーリー、エバンスの外国籍選手とそれぞれ試合前に闘志を高める儀式の相手役を務めることからも垣間見える。当然のように試合後にヒーローインタビューで名前を呼ばれるとチームメートから大きな歓迎を受けた。普段はあまり感情を表に出さないエバンスも大きなガッツポーズをして祝福し、次の心に響く言葉をかけてもらったと小野寺は言う。「ドウェインは『お前を誇りに思うよ』と言ってくれました。こういうチームメートと一緒にプレーできるのはうれしいです」

小野寺祥太

指揮官「昔から負けん気が強く貪欲で、スポンジのような選手」

今シーズン、琉球はシーズン前半戦で田代直希、後半戦に入って牧隼利が故障離脱し、ペリメーターの層が薄くなっている。それに加え初戦でコー・フリッピンが足を打撲し、この日はプレータイムを制限せざるを得ない状況となっていた。

この危機に桶谷ヘッドコーチは試合前、アシスタントコーチ陣と「ペリメーターのところで祥太に勝負どころを任せられないと、この先しんどくなると話していました」と明かし、だからこそ小野寺の活躍が大きな意味を持つと強調する。「今回、こうやって勝負どころを任せて期待に応えてくれたのでコーチ陣、本人ともに自信を持てる。この経験が次のゲームに生きてくる。今日は僕たちにとって大成功でした」

連勝でクォーターファイナルを終えたことで、琉球はセミファイナルまで移動日もなく沖縄でじっくり調整できる。それはフリッピンの回復にとっても明るい材料だ。小野寺のステップアップは、セミファイナルの準備においても価値のあるものだった。

ちなみに高卒で当時bjリーグの岩手ビッグブルズに入団した小野寺だが、そこでチームの指揮を執っていたのは前回、琉球の指揮官を退任した後の桶谷ヘッドコーチだった。指揮官にとってプロバスケットボール選手としての基礎を叩き込み、自身の哲学を熟知する愛弟子が愛されキャラとして在籍していることは、チーム作りの助けとなったはずだ。

7年ぶりに同僚となり、大一番でたくましく成長した姿を見せてくれたことに桶谷ヘッドコーチは笑みを見せる。「僕が育てたというのではないですが、いろいろな壁にぶち当たりながらも成長している彼と今、同じチームにいて活躍してくれるのは特別な思いがあります。昔から負けん気が強く貪欲で、どんどん経験を吸収するスポンジのような選手。経験からくる自信をつけて、チームを次のステージに導いてくれました。感謝でいっぱいです」

キャリアを代表するプレーを見せた小野寺だが、セミファイナルを突破するには引き続きチームにエナジーを与える働きが期待される。「正直、めちゃくちゃ楽しかったです。コートの中で集中しないといけなかったですが、ちょっとニヤニヤしてしまうくらいリラックしてできたと思います」

こう振り返った今回の状況を1週間後も再現できた時、小野寺は琉球を悲願のファイナルへと導くシンデレラボーイになるだろう。