文=大島和人 写真=B.LEAGUE

豊かな発想を持ちつつ、技に溺れることのない司令塔

『三遠旋風』の中心にはこの男がいる。身長170センチのポイントガード・鈴木達也だ。

Bリーグを見れば鈴木の他にも小柄な好プレイヤーはいる。ただ鈴木は田臥勇太(栃木)や志村雄彦(仙台)のように高校時代から全国区だった選手と違い、保善高時代はウィンターカップにさえ出ていない。富樫勇樹(千葉)のようにアメリカで技を磨いた選手でもない。強烈なアスリート性や、アクロバティックな動きを持っているタイプでもない。まだ25歳と若手だが、bjリーグから叩き上げた職人肌の司令塔だ。

「周りを上手く使うのが僕の仕事なので、周りを上手く使って、チャンスがあったら自分でも得点をしていく。そのバランスです」と、彼は自らの役割を説明する。

拓殖大を経て進んだバンビシャス奈良では2014-15シーズン、15-16シーズンと2年連続でbjリーグのアシスト王を獲得している。そして今季から三遠ネオフェニックスに加入した。その経歴が示すように、パス能力は折り紙付きだ。今季のB1でも1試合の平均アシスト数「4.4」を記録(第6節終了時点)し、富樫勇樹(2位)や田臥勇太(5位)も抑えて1位に立っている。

「三遠では僕のプレースタイルがそのまま求められていて、そこはフィットしています。今はしっかり自分がクリエイトしてからのアシストができています。オフェンス面で自分が起点になれるところはなって、でも無理はせず……。バランス良くというのが今は上手くできていると思います」

五分五分の膠着した局面を打開する豊かな発想を持ちつつ、技に溺れてミスをすることが少ない。鈴木はその両立ができている『達人』だ。

三遠のオフェンスは積極的に仕掛けて、早いタイミングでシュートを放つことが持ち味。ミスが出たときの痛みが大きいのも事実で、組み立てでミスを犯さない鈴木の存在が効いている。もちろん相手が彼のパスを警戒して『受け手』についていた場合に、自ら決める能力もある。28日の川崎戦は3ポイントシュートを2本狙って2本とも成功。計11ポイントを挙げ、昨季のNBL王者を下す立役者になった。

bj時代より対戦相手のレベルが上がった中で持ち味をしっかり出せている理由を、彼は「関東大学1部でプレーできていたのが大きい。今、日本代表に選ばれているプレイヤーはほとんどが関東1部でやっている。そこで一緒にプレーできていたので、今はそんな焦ったプレーをしなくて済んでいる」と説明する。

Bリーグを目指す『普通の』少年にとってのお手本に

対戦相手の川崎にもかつてのチームメイトが2人いた。拓殖大では藤井祐眞が1学年下で、長谷川技が1学年上だった。当時は東海大、青山学院大の二強が抜けていたとはいえ、鈴木はエリート選手の集まる関東1部で、主力を張っていた。つまり当時から相応のレベルには達していた。

鈴木にしてみればNBLの『エリート』も大学時代は同じカテゴリーで技を競い合っていた同格の仲間たちだ。そして鈴木はbj奈良の中心選手として、3年間キャリアを積んだ。エリート軍団のリザーブに甘んじるよりも、有益な時間だったに違いない。

170cmでもプロでやれる。特別なアスリートでなくても、明成や福岡大大濠、洛南のような名門高のOBでなくても、プロの世界で立派にやっていける。そんな鈴木はBリーグを目指す『普通の』少年にとって、お手本になる存在でもあるだろう。

彼もこう言う。「子供たちや学生たちが、僕のプレーを見てプロになりたいと夢を持てるようになったら僕としてもうれしい。そう思ってもらえるように全力でプレーするだけです」

Bリーグを成功させるためには華やかな演出や、ダンクシュートの分かりやすさも間違いなく大切だ。しかしいぶし銀の渋さも捨てがたい。達人・鈴木の地に足がついたプレーは、きっと新生Bリーグの売りになっていくだろう。

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