文=大島和人 写真=B.LEAGUE

「初心に帰ろう」の声で三遠のアグレッシブなバスケが復活

川崎ブレイブサンダースは昨年度のNBL王者で、直近の日本代表に4名を送り込み、現在8連勝中。第5節を終えた段階で、B1中地区の首位に立っていた。

三遠ネオフェニックスも同地区の2位につけ、第1節に川崎から2連勝を飾っている。しかし当時の川崎は代表組が合流して数日と連携が乏しく、得点源の辻直人は負傷で不在だった。また三遠はこの日の川崎戦においてチーム最大の得点源で、インサイドの軸になるロバート・ドジャーが負傷で欠いていた。三遠の鈴木達也の「今節は誰もが川崎が優位に試合を進めると思っていたはず」という言葉を借りるまでもなく、大半の観戦者が川崎のリベンジを予想していたはずだ。

ただ、三遠は自分たちの『らしさ』を再確認してこの一戦に臨んでいた。藤田弘輝ヘッドコーチはこう振り返る。「ここ最近の試合は消極的になってしまっていた。川崎との開幕戦を見返したら、アグレッシブさが全然違った。初心に帰ろう、アグレッシブに戦おうということで今日の戦いにつながった」

12得点で勝利に貢献した田渡修人も、試合前の思いをこう振り返る。「開幕2連戦がマグレじゃないところを全員で見せようと言って、チーム一丸で戦った」

チャレンジャーの気持ちを取り戻した三遠が、心地よい番狂わせを見せた。この試合を見た人は、もう決して三遠の勝利を『マグレ』と思わないだろう。三遠があまり偶然の要素を感じない、内容の伴った戦いにより87-81で川崎を下したからだ。

序盤の『ファジーカス無双』をアシャオルと太田が封じる

振り返ると第1クォーターを支配したのは川崎だった。B1の得点王争いでトップに立つニック・ファジーカスが試合開始から得点を重ね、10分間で11ポイントを記録。三遠は13-22という明らかな劣勢で、第2クォーターを迎えることになった。

「11失点すべて、僕たちのやろうとしているディフェンスができていない形で取られた。でも試合の中ですぐ対応できて、最後にしっかり止められた」と田渡は振り返る。

ファジーカスを擁する川崎のインサイドに対しても、オルー・アシャオルと日本人ビッグマンの太田敦也が奮闘した。太田は川崎のオフェンスについて「ファジーカスと辻のところを中心にやってきていて、多少分かりやすい攻撃の仕方になって、逆に止めやすいとこもあった」とも振り返る。この2人を完全に封じたというわけではないが、藤田ヘッドコーチは「簡単に点数を取らせないというのは遂行できた」と一定の手応えを口にする。

第2クォーターになると三遠はまず守備が機能して31-37まで点差を詰める。そして第3クォーター、三遠のオフェンスが爆発した。「ディフェンスからのトランジション(切り替え)。アグレッシブなオフェンス。シンプルですけれどそれが遂行できて良かった」と藤田ヘッドコーチは言う。

三遠はガード陣が面白いように走り、ボールを運ぶ。加えて少しでも隙があれば遠目からも躊躇なくシュートを放っていた。身長170cmの鈴木と並里祐、171cmの大石慎之介も『大きな』存在感を見せ、連動した攻撃を見せる。第3クォーターは鹿野洵生の3ポイントシュート2本もあり一気に逆転。川崎は焦ってミスを犯しては速攻を浴びるという悪循環で、スコアをひっくり返される。

ゾーンディフェンスの攻略が勝敗を分けるポイントに

第4クォーターに入ると川崎は三遠の突破を警戒し、ゾーンディフェンスも使ってゴール下の防御を堅くする。しかし三遠は空いた外を使って残り3分27秒にアジャオル、残り2分33秒に鈴木が連続して3ポイントシュートを成功。川崎の北卓也ヘッドコーチが、「ドライブをやられるのでゾーンにしたんですけど、ゾーンの時に2本連続で3ポイントをやられた」と悔いる、試合の山場だった。川崎も辻直人の3ポイントシュートなどで追い上げるが、三遠はそのまま崩れることなく、強敵を撃破。B1中地区の首位に立った。

今シーズンのB1を見れば旧NBL勢と旧bj勢は明暗が分かれており、三遠を除くbj勢は上位に食い込めていない。だからこそ三遠の健闘が際立っている。この試合も切り替えの速さ、走力に加えて攻撃の精密さが際立ち、川崎の個人を組織で圧倒してみせた。

「個人の能力で見たら、絶対に川崎さんの方が上」と田渡は断ずる。その言葉に卑屈さは一切なく、むしろ誇らしく聞こえた。