デビン・ブッカー

チームが強豪へと変貌しても、良い意味で『不変』のパフォーマンス

NBAのシーズン前半戦を終えたタイミングで、『ESPN』は仮想のMVPランキングを発表した。これは本物のMVP投票と同じように主要メディアの投票を募るもの。合計100票のうち1位票の45票をジョエル・エンビードが占めて1位に、ニコラ・ヨキッチが43票を集めてそれを追う。3位のヤニス・アデトクンボは1位票はわずか9で、エンビードとヨキッチの一騎打ちとなっている。

4位以下はステフィン・カリー、クリス・ポール、ジャ・モラント、デマー・デローザン、ケビン・デュラント、ルカ・ドンチッチ。同ポイントで10位をデビン・ブッカーとジミー・バトラーが分け合っている。概ね納得の結果にも思えるが、フェニックスのメディアは違う。48勝10敗と東西カンファレンスを通じてぶっちぎりの首位を走るサンズからMVPが出るべきだと信じており、クリス・ポールとブッカーで票が割れて5位と10位に沈んでいることに納得していない。

MVP投票とはこういうもので、彼らの貢献を過小評価するものでは全くない。事実、優勝に最も近いのはサンズだろう。昨シーズンにNBAファイナルまで勝ち進んだロスターをほぼ残し、クリス・ポールは年齢的衰えを見せず、他の選手は経験を積んで成長している。普通は優勝のチャンスを逃すと、主力が流出したり、主力を残せても貴重なロールプレーヤーが退団したりするものだが、サンズは昨シーズンのチームがそのまま成長曲線を描き、貴重なロールプレーヤーという意味では一度は退団したトーリー・クレッグを呼び戻すことに成功している。直近の18試合で17勝を挙げている以上に、サンズは抜かりないチームとなっている。

そこで話はブッカーの評価へと移る。クリス・ポールはすでに名声を勝ち取った36歳のベテランだが、まだ25歳のブッカーはこれから多くのものを勝ち取らなければならない。絶好調のサンズを引っ張るエースでありながら、MVPレースで10位はあまりに不当な評価だと地元メディアが憤るのも分かる。事実、彼の成長ぶりは目を見張るものがあるからだ。

サンズのクラッチタイムの異常なまでの強さは、バスケを知り尽くすクリス・ポールの相手の弱点を突くプレーメークに支えられている。だが『ARIZONA SPORTS』は、試合序盤からエンジン全開でプレーできるブッカーの貢献を強調する。ポールは相手のディフェンスを見て研究し、弱点を探るが、それを生かすのはあくまで試合終盤の勝負どころ。ポールが相手の動きを読み取る前に10点差、20点差を付けられては挽回するのは難しい。序盤に大差を付けられて、クラッチタイムまでに追い上げで余計なエネルギーを使っても、勝つ確率は下がる。そんな不利な試合展開に持ち込ませないのがブッカーだ。

今シーズン、第1クォーターのブッカーは7本を超えるシュートアテンプトで8.9得点を記録。もともとブッカーはキャリア序盤に、チームメートのサポートをほとんど受けずに個人でディフェンスをこじ開けて得点を積み上げてきた。弱いチームを引っ張るエースは、チームプレーが機能するにつれて持ち味を発揮できなくなるものだが、ブッカーは違う。ここ5シーズンの平均得点は25から26点と変わらないが、チームと自分を取り巻く環境が激変しているのに数字が変わらないのが彼の強さだ。ブッカーが高い個人能力を発揮することでサンズは試合の主導権を取り、それをポールが引き継ぐ。これがサンズにとっての勝利の方程式なのだ。

それでいてディフェンスは大幅に向上している。以前の彼はオフェンスにすべてのエネルギーを注いでいたが、モンティ・ウィリアムズが志向する「5人全員がディフェンスの穴にならないチーム」に見事に適応した。リーグのベストディフェンダーではないにせよ、相手チームがスイッチを仕向けて狙い撃ちにする対象にはならない。ブッカー自身は「適切なポジション、味方との相互の距離感を意識すること。それと同時にボールへの執着心を持つこと。結局のところ、フィフティフィフティのボールに食らい付いて絶対に自分のものにするんだ、という気持ちの強さがディフェンスの上手さだと思う」と語っているが、そんなシンプルな言葉では片付けられないディフェンスを遂行している。

昨シーズンにプレーオフ進出を決めた時、ブッカーは「5年間も口を閉ざしていた」と語った。『バブル』で行われた2019-20シーズン終盤を8勝無敗で終え、クリス・ポールの加入でサンズは一気に飛躍した。それでもブッカーは、以前と変わらず自分にリミットを設定せず、どこまでも上を目指してサンズを牽引し続ける。かつてはオールスターになかなか選ばれないことを気にしていたブッカーだが、今はMVP予想の出遅れを何とも思わないはずだ。彼が欲しい栄誉は、MVPではないからだ。