『グリッド&グラインド』からの脱却から2年で上位を狙えるチームに
ジャ・モラントを中心とした若きグリズリーズは、プレーイン・トーナメントの激闘を制してプレーオフへと返り咲いたシーズンを終え、さらなるステップアップに向けて積極補強に出ました。ペリカンズ、クリッパーズ、ウルブズとの連続したトレードはスティーブン・アダムスの獲得で現有戦力をアップしただけでなく、ドラフト順位のアップや将来の指名権を手に入れることにも繋がり、『トレードの上手いチーム』という印象を強くしました。
マルク・ガソルとマイク・コンリーを中心にした『グリッド&グラインド』と呼ばれたハードなディフェンス主体のチームが解体された時、グリズリーズは西カンファレンスの最後尾グループまで順位を落としました。しかし、ヘッドコーチにタイラー・ジェンキンスを迎え、モラントを指名した2019年のオフから、わずか2年という驚異的なスピードで上位を狙えるチームに変貌しています。
ここまでの成果は見事ですが、立ち止まってしまうと後退する可能性があるのもNBAの怖いところ。特に近年ではオフのたびに『スター選手によるトレード要求』が恒例となっており、このまま一気に強豪の仲間入りできるか、それともプレーオフ争いのレベルに留まるかで、チームの将来は大きく変わってきます。
そんな中で迎えた今オフは、グリズリーズにとって戦力増強を図る最大のチャンスでもありました。中心となるジェイレン・ジャクソンJr.とモラントはルーキー契約のためサラリーが安く、昨シーズンのホークスのように実力あるベテランに高いサラリーを提示するだけのキャップスペースが残っていたからです。それでもフロントは自分たちの方針をブラさずに貫き、大型補強よりも『継続的な成長』と『戦える選手層』を選びました。
28歳のアダムスと27歳のカイル・アンダーソンを除く全員が25歳以下と若い選手を揃えた一方で、4年目で21歳のジャクソンJr.より若いのは今年のドラフトで指名したザイール・ウィリアムスと30位のサンティ・アルダマの2人だけで、いわゆる『素材型』ではなく『大学で主力として活躍してきた選手』を重視した構成になっています。昨年のドラフトでもゼイビアー・ティルマンSr.やデズモンド・ベインの4年生コンビを指名して見事に結果を残しており、完成度が高く、それでいて伸びしろもある若手を揃える方針を続けています。
トレードによって充実しすぎたロスターは、枠の関係でラジョン・ロンドをウェイブすることになりました。モラントの控えとして機能しそうでしたが、グリズリーズはロンドではなく、ウルブズから加入した2019年ドラフト6位のジャレット・カルバーを残すことを選んだのです。堅実な戦力になるベテランよりも、伸び悩んでいる3年目を優先したことは、プレーオフを狙うチームの選択としては驚きでした。
高校入学までサッカーに打ち込んでいたというカルバーは遅咲きの選手で、高校卒業時の評価はそこまで高いものではありませんでしたが、大学2年間で実力を伸ばしドラフト6位と期待されてウルブズに加入しました。しかし、ルーキーシーズンこそ平均24分プレーしたものの、2年目はアンソニー・エドワーズに押し出されるようにプレータイムを減らしただけでなく、コートに出てきても何が得意なのか全く分からないプレーぶりで大きく評価を落としました。コンボガードとしても、ウイングとしてもプレーできそうな一方で、何をさせても中途半端にも見えるカルバーは、自身の役割に迷い、自信を失っているようにも見えます。
ジェンキンスがヘッドコーチになってからのグリズリーズは、個人の武器を生かした役割分担でチーム力を伸ばしてきただけに、カルバーにも適切な役割が与えられそうです。プレーオフチームになったことでドラフトで上位指名権を手に入れることが難しい中で、大型補強よりも成長を選んだグリズリーズにとって『カルバーの成長』は次のステップに進むキーポイントになりそうです。