粘り強く決め続けるミドルトンを、エースキラーのブリッジズがどう抑えるか
ヤニス・アデトクンポとクリス・ミドルトンがチームメートになり、現在まで続くチーム構成の核ができてから8年、マイク・ブーデンフォルツァーがヘッドコーチとなりリーグのトップチームに成長してから3年。バックスはシーズンごとに一歩一歩、本当に一歩ずつステージを上げ、ついにNBAファイナルへと駒を進めました。初めて迎えるファイナルですが、アデトクンポがケガを抱えているため、ミドルトンにはチームを牽引する大活躍が期待されます。
エース格の選手にケガが多い今シーズンですが、その原因はオフの短さにあります。昨シーズンのプレーオフで勝ち進んだチームほどエース格がケガに見舞われることが多く、さかのぼれば前年のオフにはワールドカップも開催されていたため、選手によっては3年近く身体をリセットする期間がないままプレーし続けていることになります。
その代表格と言えるのがミドルトンですが、ほぼフル稼働しながらケガによる長期離脱はなく、負担の大きいエース格の選手としては驚くべき頑丈さを誇ります。このプレーオフでは17試合で平均39分を超えるプレータイムながら、絶えずフィジカルコンタクトを繰り返し攻守に働き続けています。フィールドゴール成功率は43%とレギュラーシーズンに比べて確率を落としているものの、試合開始から終了までインテンシティを保ち続けていることがミドルトン最大の武器です。
判断能力やドライブ能力がそれほど高いわけではないミドルトンは、スクリーンを使っても自分のマークマンを引き剥がせないことが多く、平均19.2本打っているフィールドゴールのうち、ワイドオープンは2.1本しかありません。相手チームのエースキラーに正面から挑むことになるため、苦手なタイプがマッチアップしてくると成功率が極端に落ちます。
しかし、それでもフィジカルで押し込み、フェイダウェイで放つシュートは試合終盤まで何も変わりません。ネッツ戦とホークス戦では第6戦に30得点以上を奪っており、疲労が溜まって誰もが苦しくなってきた時ほど、ミドルトンのシンプルなプレーが効果を発揮し始めます。選手のタイプとしては『シューター』に分類されますが、軽やかにシュートを決めていくというより『タフなシュートを粘り強く決めていく』のが持ち味です。
敵地で始まるファイナルはアデトクンポのケガもあって苦戦が予想されますが、苦しくなるほどにミドルトンのタフさがバックスの強みになります。プレーオフになってドンテ・ディビンチェンゾがケガで離脱したこともあり、ビッグラインナップを敷くバックスとしてはフィジカルにぶつかり合う重たい展開に持ち込むのが好ましいでしょう。
ミドルトンとのマッチアップも予想されるサンズのエースキラーは、3年目のミケル・ブリッジズです。長らくデビン・ブッカー中心のチーム作りをしてきたサンズですが、このチームの形ができたのはブリッジズとディアンドレ・エイトンがドラフトされた2018年からで、そこからドラフト、FA、トレードで現在の主力を揃えました。プレーオフに進めなかったチームがクリス・ポール加入でファイナルに進んだ印象が強いですが、実際には3年間で若い選手たちが着実に成長し、今シーズンになって一気に花開いた形です。
一般的にエースキラーとなるディフェンダーにはフィジカルの強さが求められます。実際にバックスのPJ・タッカーは196cmとサイズはないものの、強靭なフィジカルと運動量でリーグ有数の守備職人と認識されています。しかし、ブリッジズは細身の身体でフィジカル勝負には弱く、従来のエースキラーとは一線を画しています。代わりに身長198cmながら215cmもあるウイングスパンと、細身の身体を生かしたフットワークの良さ、とりわけ『スクリーンをかわす』スキルには目を見張るものがあります。
現代オフェンスではスクリーンを駆使して『狙い通りのマッチアップにさせない』ことが一般的です。リーグ最強のディフェンダーであるカワイ・レナードでさえも、このプレーオフではルカ・ドンチッチやドノバン・ミッチェルのマークに向かってもスクリーンで『守れせてもらえない』形を作られ、ディフェンス能力を発揮できませんでした。ブリッジズのディフェンススタイルは現代オフェンスに対応したエースキラーなのです。
スクリーンに対しての身体の置き方が上手いブリッジズですが、それ以上にスクリーンをすり抜けていく軽やかな身のこなしと、一瞬遅れて横や後ろからのチェックになっても、長いウイングスパンを生かして正確にシュートを叩き落とせるのが得意技です。ブリッジズのディフェンスは単純に止めきるかどうか以上に、オフェンス側の意図したプレーを思い通りにやらせないこともストロングポイントになっており、見た目以上のプレッシャーを与えます。
通常であればミドルトンにはブリッジズが対応します。ウイングスパンを生かしたブロックでブリッジズが止めきってしまえばサンズが優位に立つでしょう。しかし、ミドルトンのフィジカルな押し込みにブリッジズが対処できなければ、マッチアップを変更する必要が出てきます。しかし、ガードを2人起用しているサンズとビッグラインナップのバックスという構図のため、サンズ側は選手の組み合わせに困ったり、ブッカーやポールのディフェンス面での負担が増え、オフェンス力低下に繋がる危険性も出てきます。
ベンチにも好ディフェンダーを揃えるサンズがミドルトンをどう守るかは、シリーズの展開を左右してきます。また直接的にミドルトンを止めなくても、ブリッジズのディフェンスでバックスの狙いを封じ込めることを選択してくる可能性もあります。一方で、どのような対策を取られてもミドルトンがやることは変わりなく、シリーズ序盤で止められてもしぶとく続けることで巻き返す強みがあります。バックスには疲労の蓄積もあり、対策が進んでいると見られるサンズが先に主導権を握る可能性が高いですが、簡単には終わらないシリーズになりそうです。