ウェストブルックにプレーメークを託し、攻守とも劇的に改善
ウィザーズは3月末の時点で17勝29敗と勝率が4割を下回り、現実的にプレーインに進むことすら難しいと思われましたが、4月を12勝5敗の好成績で乗り切り、東カンファレンスで最も勢いのあるチームとなってシーズン終盤を迎えています。チーム得点王のブラッドリー・ビールが4試合、八村塁が6試合と主力の欠場も多く、ダニ・アブディヤの離脱もあって、決して楽な状況ではありませんが、17試合中14試合でトリプル・ダブルを達成したラッセル・ウェストブルックの驚異的な活躍がチームに勢いを与えました。
4月の平均スタッツが21.1得点、13.3リバウンド、12.0アシストを記録したウェストブルックですが、特に際立ったのは11.4本を記録したディフェンスリバウンド数で、ポイントガードながらリーグで最も多くのディフェンスリバウンドを奪いました。もともとリバウンドの強い選手でしたが、反応の速さでロングリバウンドを抑えるのが特徴です。しかし、最近はゴール下でリバウンドを奪う機会が増えています。この変化はウィザーズディフェンスの弱点と関係があります。
ウィザーズはリバウンドが弱点というわけではありませんが、3ポイントシュートに対するディフェンスに大きな課題がありました。そこでリバウンドをウェストブルックに任せることで、スピードのあるガードを多く並べるラインナップに変更し、相手に3ポイントシュートを打たせないディフェンスを優先しました。その結果、4月の被アテンプト数は31.9本でリーグで6番目に少なく、また3月末まで38.3%もあった被成功率はリーグで2番目に良い33.2%を記録しました。
個人のディフェンス力に大きな課題があるウィザーズで、「抜かれてもいいから3ポイントシュートを抑える」ことを優先したため、代わりにペイント内の失点は増加しました。ただし、ゴール下にはトレードで加入したダニエル・ギャフォードが待ち構え、わずか18.7分のプレータイムながら1.8ブロックとシャットアウトする働きを見せました。お世辞にもチームディフェンスが良いとは言えないウィザーズのため、チーム全体で連動したというよりは、ウェストブルックの利便性とギャフォードの個人能力が強力にディフェンス力を引き上げたと言えます。
ギャフォードは10.6得点を記録してオフェンス面での貢献度も高く、またロビン・ロペスやアレックス・レンも高いフィールドゴール成功率を記録しました。センターが堅実に押し込むようになったことでウィザーズのペイント内得点はリーグ最高の57.4点を記録しましたが、その一方で3ポイントシュートのアテンプト数は24.9本とリーグで最も少なくなりました。攻守に3ポイントシュートを減らし、ペイント内で勝負したことが好成績に繋がったのです。
センター陣の活躍は素晴らしかったものの、それはウェストブルックのパスがあってこそ。このパスにも4月になって変化がありました。ウェストブルックは3月末まで平均10.6アシストを記録していましたが、1試合当たりのパス本数は60.5本とアシスト数の割に少ない本数でした。しかし、4月になるとパス数が72.6本まで増え、一方でウィザーズのチームとしてのパス数は増えていません。単純にウェストブルックにプレーメークを託す形を増やし、多くのアシストパスを出させたことが成功の要因となりました。
月間のトリプル・ダブル数で史上最多を更新したウェストブルックの4月でしたが、その内容は単に個人が好調でスタッツを向上させたのではなく、そのオールラウンドな能力を生かしチーム内の役割変更を成立させた結果として、驚異的な個人成績になりました。チームとしても個人としても戦略的な能力が高いわけではないため、たまたま成功した面も否めませんが、一気にチームを変革してしまえる能力はスーパースターならではです。
5月に入ってもウェストブルックの勢いは止まらず、現地5月3日のペイサーズ戦では21リバウンドと24アシスト(14得点)という見たことがないスタッツで154-141の快勝に貢献しています。
通常のシーズンであればプレーオフ進出をあきらめていたところですが、前向きに戦い続けることができたことで、ウィザーズは勢いが出てきました。対戦相手からすればウェストブルックさえ止めれば問題なく勝てるのですが、対策を立てても止められないのがウェストブルックでもあります。プレーインでも東カンファレンスの台風の目として暴れまわってくれそうです。