文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

指揮官フリオ・ラマス「ベストの12人を選ぶ」

ワールドカップのアジア1次予選、初戦となるフィリピン戦が11月24日にホームの駒沢体育館で行われる。日本代表はリーグ戦の合間を縫って強化合宿を重ね、チーム強化を進めているが、それと並行して各ポジションで生き残りを懸けた競争が激化している。

試合でベンチ登録できるのは12名、予備登録メンバーの24人の中から、それぞれの試合の前日に最終メンバーを提出する仕組みであり、24日のフィリピン戦、27日のオーストラリア戦でメンバーが入れ替わることもあり得る。ヘッドコーチのフリオ・ラマスは選手選考について「ベストの12人を選ぶ」としか語らなかった。チームの核となる選手は決まっているのだろうが、それを明らかにしようとはしない。選手のコンディションを見極める意図もあるが、それ以上に、チーム内競争が個々のレベルアップを引き出すことを期待しているのだろう。

予備登録メンバー24名のうち、学生の3人を除く21人をポジション別に分けた。一部の選手は複数ポジションに入れ、今週の合宿に呼ばれていない選手はカッコで表記している。

PG  富樫、篠山、橋本、宇都(安藤)
SG  比江島、田中、古川、辻、宇都(川村)
SF  馬場、古川、田中、熊谷、張本(小野、金丸)
PF  アイラ、譲次、張本(永吉)
C   太田、公輔、中西

竹内公輔と譲次、太田敦也のビッグマンは昨年7月のOQT(リオ五輪世界最終予選)も、そのずっと以前からも変わらぬ顔ぶれ。だがOQT後に帰化申請が通ったアイラ・ブラウンが加わったことで大きくパワーアップしている。スモールフォワードのポジションは今年に入って馬場雄大が定着。コンディションさえ整えば古川孝敏とのローテーションになりそうだ。

選考が難しいのはガード陣。シューティングガードは田中大貴が左大腿四頭筋の筋挫傷で戦線離脱。24日までに復帰できるかは微妙なところで、比江島慎との併用もしくは3番ポジションで中核を担うはずの田中の出場に黄信号が灯った。辻直人はリーグ開幕前のケガが原因で出遅れていること、古川もケガがあり今月に入ってようやくリーグ戦に戻ってきたばかりと、状態を見極めての選択となる。

4人が争う『最激戦区』となったポイントガード

最激戦区となっているのがポイントガードのポジションだ。長谷川健志体制のOQTでは田臥勇太、橋本竜馬の2人で担ったこのポジションだが、その後はBリーグで活躍した富樫勇樹、篠山竜青が定着。橋本竜馬を含む3人が堅いと見られていたのだが、ここに来て宇都直輝の株が急上昇。どの選手もコンディションは良好で、誰が選ばれてもおかしくない状況だ。

この1年で『Bリーグの顔』、そして『日本代表の顔』となった富樫も、自らの地位が安泰だとは考えていない。「日本代表で長くやっているわけではないですし、代表で何かの実績を残したわけではないので。大会のたびに信頼を勝ち取っていかなければいけないのが代表だと思っています」と富樫はアジアカップ前の時点で語っていた。

富樫の持ち味はスピードと得点力で、この点においては日本の他のポイントガードを圧倒している。だが、167cmの身長は特に世界と戦う上でハンディとなり得る。プレーの質を抜きにして、プロフィールの身長を見ただけで富樫を切り捨ててしまう指揮官も中にはいる。富樫自身、コーチの評価を得られず不遇の時期を経験しているからこそ、今の状況にも油断しない。

同じく篠山にも油断がない。昨年夏のOQTでは川崎ブレイブサンダースをNBL優勝に導いたポイントガードでありながら、最後の最後で代表落ちする悔しさを味わっている。

篠山は言う。「ディフェンスの部分で他の代表候補よりも激しい守備ができるところがアピールポイントです。オフェンスではシュートセレクションが強み。空いている選手にパスを出し、自分が空いていれば打つというシンプルなところですが、そこをどれだけ正確にやれるかが僕自身のカギになります」。最終メンバー入りについては「川崎と代表ではセットプレーなども含めやることが違いますが、良い感じでフィットしています」と好感触を得ている。

橋本竜馬はスタッツ的には目立たないが、常勝チームのシーホース三河で培ってきたキャプテンシー、精神的支柱としての部分でチームから外せない重みがある。「スタッツではない部分を評価されてこれまで選ばれてきた」と言う橋本は、コートの中でも外でも常にハッスルして、戦う姿勢を周囲に伝えられる存在。『背中で引っ張る』部分を評価するのであれば、彼は不可欠だ。

宇都の招集はすべての日本人選手へのメッセージに

田臥勇太が代表から遠ざかっているのが残念ではあるが、富樫、篠山、橋本の3人はどれも実力者であり、プレースタイルのバランスも良い。本来であれば「これでOK」だが、その状況に割って入ってきているのが宇都だ。190cmのサイズと、自らボールをプッシュしてレイアップまで持っていけるドライブは他の選手にはない武器だし、Bリーグのアシスト王でもある。また国際大会を戦う上では、サイズのミスマッチを起こしにくい守備のメリットも大きい。

専修大学卒業後にトヨタ自動車アルバルクに加入するも、層の厚いチームでなかなか頭角を現すことができなかった宇都。自分で能動的にプレーを作っていくスタイルが『エゴ』と見られて評価につながらなかった部分もあった。しかし、Bリーグのスタートとともに富山グラウジーズに移籍すると先発ポイントガードに定着。「プレータイムがなければ成長しない」というバスケットボールの鉄則を体現するかのように、この1年数カ月で急激に成長しており、Bリーグ初のトリプル・ダブルも記録した。

「僕は自分らしくプレーするだけ」と選考レースについて多くを語らない宇都だが、24名の予備登録メンバーに残ったのは、フリオ・ラマスが宇都のプレースタイルを認めていることを意味する。スタイルを否定されることさえなければ使われる、という自信が宇都にはあるのだろう。

国際大会の経験に乏しい面は否めないが、リーグで最も調子の良い選手を抜擢することは、代表に選ばれていないすべての日本人選手を刺激するメッセージにもなる。代表合宿ではシューティングガードのポジションでの練習も行っており、1番と2番の兼務で最終メンバーに入ることもありそうだ。

昨夏のOQT後、すなわち『Bリーグの時代』になってからの日本代表は、富樫勇樹とアイラ・ブラウンが新しい顔となり、協会のバックアップもそれまで以上に充実して『2020』に向けての強化が進んでいる。ただ、この夏のアジアカップで結果を残せなかったのも事実だ。『負け慣れたチーム』である日本代表が変われるかどうかは、今回選ばれる選手たちにかかっている。超過密日程で心身ともに厳しいだろうが、成功すれば日本バスケ界に新たな歴史を刻むことになる大仕事。『頑張って終わり』ではなく、是非とも結果を残してもらいたい。